バロック絵画の先駆者カラヴァッ ジョは37で死んだが、激しい性 格から人間関係でよく問題を起こ し、晩年には殺人者となって故郷 を去る。そんな彼の心が最も安定 していたのは、大画面を緻密に描 き込んでいる時だけではなかった ろうか。血の吹き出る残虐な場面 を描いた絵と静謐な静物画を並べ ると才能の幅広ささが改めてわか る。自画像も少なくないが、『ト カゲに噛まれる青年』はそのひと つとしてよい。そしてそこには薔 薇も描かれている。赤い薔薇の血 滴る刺に囲まれるこの人を見よ!