ある日、林の中でレモンが落ちて いるのを見つけた。丸善まで行っ てそれを本の上にそっと置くのも よかったが、代わりにサディステ ィックな実験を夢想した。ロート レアモンは『マルドロールの歌』 で、解剖台の上で蝙蝠傘とミシン 台の出会いを描写して後年のシュ ルレアリスムの先駆となったが、 こちらはまるでフールの歌だ。C 調の鼻唄混じりに、縛り吊るした レモンに針や爪楊枝を刺し、ロー トから垂らしたレモン汁をレトル トで加熱蒸留する。そうして得ら れるはビタミンC的レトリック。