幼い頃、母はセーターをよく手編 みしてくれた。小さくなって着ら れなくなったものをほどき、それ に新しい別の色の毛糸を買い足し て編むため、どこか色のバランス が悪くなったりした。母は筆者の 両腕を立たせて枷の束を巻き、左 右の手首を順にこっくりとうなづ かさせては、毛糸をボール状に巻 き進むのだが、立てた両手がだる くて嫌だった。だが、セーターを ほどく時は面白かった。ケイトウ の花そっくりに束ねて握った先端 から、縮れた毛糸が素早くほどけ て行く。あのくすぐったい感触!