近くの道端に菫がたくさん咲いて いた。翌日写生帳を持って出かけ ると、すっかり花は切り取られ、 ひとつだけ残ったものは靴で踏み にじられて萎えていた。この小さ な花は地面からわずか数センチの ところで咲くので寝転んで描く必 要があるが、それでは車に轢かれ るからなかなか面倒だ。それでも その遠慮がちに謹んで咲くといっ た風情がよく、眺めているだけで 楽しくなる。花屋には売ってはい ないこの花が似合うのは、口数が 少なく、いつもひとりで隅にいる ような可愛い女の子だけだろう。