今年の秋も虫の音色を楽しんだ。
コオロギや鈴虫以外はあまり鳴き
声と虫の名前が一致しないが、主
役はやはり鈴虫だろう。たとえば
十五夜のお月さんがくっきり見え
る晴れた夜、小さな裏庭で虫が鳴
いていることにふと気づく時、心
はたちまち透き通って、体全体が
耳と化する。おそらくその時、月
は誰にも知られず、大きな鈴の形
をして光っていることだろう。そ
してわが家の庭にはないススキが
群生し、一斉に銀色の穂をもたげ
る。そして、次には花札に描かれ
る満月の野原でも連想しようか。