電車に乗って座席につき、前を見 ると、頬の出っ張った20代半ば 頃の女が、手鏡を覗き込んでマス カラをつけていた。よくある光景 なので驚くに当たらないが、それ から小1時間、休みなく同じ作業 をし続けたと知ればどうか。周り の視線は全く気にせずに、ひたす ら鏡を凝視している姿を凝視し続 けたところ、ついに女の両眼は歌 舞伎役者の浮世絵のようになった ではないか。つまり、片方が上、 片方が下を向きながら寄り眼にな っていたのだ。そんな恐怖の顔を 見てその夜は悪夢にうなされた。