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青花写しが終われば、下絵と生地を別々に巻き、同じ下絵箇所同士を少しずつ繰り広げ、下絵を常に見つつ糸目を引いて行く。このことはキモノの場合と同じだが、キモノの下絵図案は屏風のように紙幅が大きくはないので下絵の参照ははるかに容易だ。屏風では生地幅全体を絶えず広げた状態で順に屏風の上端や下端から糸目を進めて行く必要上、同じように寸法の大きい下絵の置き場所に困る。それで壁面に全体を貼りつけておくのも手だが、糸目作業の机からそれが間近であればよいが、そうでない場合は下絵の細部の確認に手間取る。すでに生地には下絵を青花で正確に写し取っているとはいえ、時にはそれが間違っていたり形が適当であったりするから、糸目という重要な工程ではもう一度しっかりと下絵の線の微妙な加減を逐一確認しながら行なうことにする。そのためにも下絵も生地も横糸方向に10センチ間隔に引いた青花線が役に立つし、そうして該当箇所を各々照らし合わせてせいぜい数十センチ高さ程度を常時広げつつ糸目をする。つまり、糸目中は屏風高さの数分の1以下しか見えない状態であるから、1、2週間程度要する作業であれば、糸目を始めた最初の頃の太さ感覚が最後のそれとはかなり違ったものになって、ひとつの作品の中で糸目の太さが統一されないことも生ずる。このために片面の糸目が全部終わってもう片面に取りかかるのではなく、片面のある程度まとまった高さが完成すれば次にもう片面に移って同じ高さ分を済ますようにする。
真綿紬はキモノで通常友禅をする反物より厚手で、しかもあちこち糸の固まりが隆起しているので、下絵を青花で写し取るのはキモノの場合以上に見えにくくて手間がかかるが、糸目の場合も様子が少し異なる。キモノのように糸目を細めにすると、生地が厚いために生地裏まで糊分が浸透しにくくなって彩色で泣きやすくなるから、その心配がない程度の太さを心がける。これは真綿紬の横糸がキモノの場合とは違ってかなり太い印象があるから,糸目の太さも自然とその太さに応じたものになるので、さほど心配することもないだろう。また、身にまとうキモノとは違って、屏風はもう少し離れた場所から鑑賞するものであるから、糸目の細さで技を誇示するキモノの文様の効果よりも、全体の絵としての迫力といったものを最優先に考えるべきで、ある程度は糸目の太さがあってよい。もっとも、キモノでもあえて太い糸目を用いる場合があるので、これはケース・バイ・ケースと言える。表現する絵に小さな花の部分が多ければ必然的に屏風であってもそこは糸目を細くすべきであるし、描く絵の内容によって自在に糸目の太さを変えると言う方が当たっている。筆者はキモノではあまり用いないようなモチーフを屏風では手がけるようにしているから、花の形もどうしてもキモノより比較的大きくなるが、そのために自ずと糸目も太めになっている。また、花や葉の輪郭を太め、その中のシベや葉脈を細めにといった気配りはキモノの糸目でも当然のもので、同じ筒紙ひとつでそうした太細を自在に引き分けるようにする。また、気に入らない糸目というものはたまに引いてしまうもので、そうした失敗は比較的短い長さであれば、ゴム糸目がまだ柔らかいうちに取りあえず爪楊枝などで生地上に乗っているものをざっと取り除き、その後すぐに綿棒や脱脂綿に揮発油を染み込ませてその部分を、生地をあまり傷めない程度に何度もそっと押し拭って糸目分を除去する。こうしても完全には落ちずにうっすらと糸目は見えるが、最終的にはあまり気にならないように仕上がる。ただし、糸目がたくさん詰まっている場所ならば、取り除きたい部分以外にも揮発油が浸透し、その部分の糸目が溶けて太くなってしまうから、失敗した糸目の除去は場合によりけりだ。何もせずに湯のしが上がって来てから最後の地直し作業で修正した方がよい場合もある。
さて、次に10センチ間隔に引いた青花線だが、これを下絵の線と見間違って糸目を引くことはまずないだろう。それよりも、糸目に際してはこの10センチ間隔の線に細工の必要があるので、次にそれを書いておく。この青花線は後の工程で当然完全に消えてしまうが、屏風に仕立てた時には見えない生地耳にごく近い青花線の両端箇所を、必ず糸目で1センチ長さ程度なぞっておく。つまり、青花が消えてもその両端の糸目を結ぶ水平線が元の青花線であるとわかるようにするためだ。屏風では糸目で描いた絵も背景の地色のぼかしも合わせる必要があり、左右の面がぴったりと10センチ間隔毎に合っている糸目印は絵のない無地空間の引き染めの際には欠かすことの出来ない目印になる。また表具を依頼する時に、屏風中央の折れ目や上端、下端を提示する必要があるが、そのために必ず上端下端の水平線両端、そして屏風の幅を示すために上下端左右端に垂直方向に同じ程度の長さの糸目を引いておく。屏風のように蝶番いで各面の絵を合わせる必要のない単一画面の作品では作品四方の隅を示す印だけで充分で、途中の10センチ間隔の目印は必要ないが、屏風ではいろいろと目印をつけて作業に便利なように工夫しなければならない。またこうした糸目印は、最終的にもし白生地上にある場合はほとんど見えないのではとの心配があるかもしれないが、ゴム糸目の場合は完全に除去されないためにうっすらと見える。
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1,受注
2,写生
3,小下絵
4,下絵
5,白生地の用意
6,青花写し
8,地入れ
9,色糊置き
10,糊伏せ
11,豆汁地入れ
12,引染め
13,蒸し
14,水元
15,糊堰出し
16,糊堰出し部の引染め
17,糊堰出し部の彩色
18,再蒸し、水元
19,乾燥
20,糊抜染
21,彩色
22,ロ−堰出し
23,墨流し染め
24,ロー吹雪
25,ロー吹雪部の彩色
26,ロー・ゴム・オール
27,表具
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