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(図1)着用時の前面を加えた小下絵。



(図2)各部位毎の文様配置概略図。



(図3)四君子文訪問着の小下絵。


●小下絵で完成作を試行錯誤する。その2

1は、『●小下絵で完成作を試行錯誤する。その1』の図5の小下絵を、実際に染める段階を前提にその工程などを吟味したものだ。紙の余白に寸法や配色の指定を記し、糊伏せなどの後の工程に至るまで、作業全体の見通しをしっかりと立てる。小下絵はもっぱら衣桁にキモノをかけた状態で見える背面を中心とした状態で描くが、本番の染色に当たっては、衣桁にかけた状態では見えない前袖や胸の絵つけも小下絵できちんと用意しなければ、全体として複雑な総絵羽模様を原寸大の下絵に拡大して描くことはかなり難しい。本図は、裾で縫い合わされて輪の状態になる袖を1枚の布地に広げて、なおかつ左右の身頃も袖と絵羽になった状態で前方向に展開してある。ちょうどイカを広げてスルメにしたような図を思えばよい。この状態をもっとよく示す例は、本図よりもむしろ『工程』の章の「●3、下絵」の図1や2だ。
 着用時に前から見える首周りの部分は、直線のみで縫い合わされるキモノとはいえ最もややこしい構造をしており、そのあたりの絵模様の配置は小下絵の段階でかっちりと計画しておかなければ、引染めや彩色など、後の工程で支障を来すことが多い。本図は背面につながった状態で前袖や胸や襟部分を描いているが、それはキモノ背面では四君子文様が右上がりの斜め構図になっている点が、キモノの前面側ではどのような文様の配置でつじつまが合わせられるかの吟味のためだ。純粋な平面絵画とは違って、キモノはこうした立体的に絵模様が破綻なくつながっていてなおかつ着用時に不自然さがないという文様配置を練る必要がある。

図2は図1を袖や身頃など全部の部位を反物状に広げて並べたもので、赤く着色している箇所が模様部分だ。キモノは1枚の幅広い布地でを染めるのではなく、どのようなキモノであっても幅がおおよそ一定した長い反物を使う。着用地に縫い目にわたって絵がぴったりと合わさっているような絵つけは、実際はあちこち離れた箇所を別々に染めて、最終的に仕立てた段階でそれらの絵がつながるようにしたものであって、その完成を脳裏に描きながらの染色の作業となる。そのため、複雑な総絵羽模様のキモノとなると、小下絵のほかに作業に便利なようにさまざまな図を用意することが好ましい。本図は特に地色を複数の色で染め分けたりするような場合に、糊伏せや引染めといった工程には便利なものだ。また、絵羽の構造がまだ慣れない間は、文様を彩色する時にもこういった展開図は役に立つ。この展開図と前図とがどのような関係にあるかを完全に把握することが、絵羽模様のキモノ制作には不可欠なことと言ってよい。

図2の展開図を用意したことで染めの作業にはいつでも入れることになったが、それから6月になって
濃い紫地色の小下絵に考えが進み、実際はそれを元にまもなく下絵を描き、順次制作を進めた。ところが、一方でその下絵から丸2か月を経た8月上旬に図3を描いている。記憶が定かではないが、振袖を染め終えてすぐだったと思う。小下絵の袖が短いことからもわかるように、これは振袖ではなく訪問着として制作するつもりで描いたものだ。ほとんど6月に描いたものと変わらないようだが、四君子文様全体が右上がりの一定方向に向かっている点をV字形に左右の方向に分けている。このアイデアは後年、別のキモノで使用されることになる。


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