『工程』トップへ



 二曲屏風『夏日』

●10 糊伏せ

下の写真はクリックで拡大します。


(図1)糊伏せが終われば、
そのまま自然乾燥させる。


糊と通常のネバ糊はどちらを先に置いてもかまわないし、またどちらか一方が乾燥しな い間にもう一方を置き始めてもよい。ここでは色糊を置く先金や筒を共有したため、色糊 の作業が終わった後、丸1日以上経ってネバ糊を伏せた。こうした方が、色糊がほとんど 乾燥していて生地を傾けても動くことがないし、また触っても付着しないので安心だ。ま た、色糊はネバ糊と同様、引き染めの際の染料の浸透を防ぐものであるので、色糊で伏せ た面をさらにネバで重ねて伏せる必要はない。ただし、色糊際とぴったり接してネバを置 くことは至難の技であり、また全く無意味であるから、色糊を伏せた周囲に若干かぶさる ようにしてネバを伏せる。これは当然のことながら、色糊とネバの間に少しでも隙間があ ると引き染めの色がそこに浸透してしまうからだ。ここで述べている屏風ではネバで伏せ る部分がかなり広いこともあり、糸目周囲を粘度の高いネバで伏せ、内部のベタは少し柔 らかめにしたネバをなるべく少なく用いた。これは糊の重さで生地がたわみ過ぎるのを防 止するためと、不要な糊の厚さを避けるためだ。不要な糊の厚さというのは、引き染めの 刷毛が及ばない部分は色がそもそも糊にかぶないから、そこは最低限度の厚みでよいとい うことだ。ただし、キモノの工程で述べているように、伏せた糊の厚みにしたがって糊焼 けの度合いも変わるから、本当は刷毛が及ばない場所であっても同じ糊の厚さにしておく べきだが、ここでは後の彩色が濃い色であることが予めわかっているので、そうした微妙 な糊焼けの濃度の差は最終的には彩色の下に隠れてしまうことを見越している。結局、糊 伏せは後の工程で失敗の可能性が大きいと思える点に関してはしっかり仕事をしておくべ きだが、実際はそうでない箇所の糊伏せ部分もかなりあるから、臨機応変に糊の厚さやあ るいはおがくずを撒く程度を加減すればよい。
 先金や筒は色糊に使用するものは別に用意する方が本当はいいが、色糊をめったに使わ ない場合は面倒かつ不経済でもあるので、通常の糊伏せで使い慣れているものを転用する のもよい。先金や筒は新しいものを使い始めた時よりも、ある程度手に馴染んだ頃の方が はるかに仕事がはかどるからだ。特に糊伏せの場合の先金は糸目の時のものよりも先穴は 大きいし、その穴の周囲に金属特有の鋭角なエッジが出来ている場合は作業の途中で生地 表面にそれが引っかかって大いに困る。そのため先金の先端はなるべく使い込んで穴の縁 がまろやかに磨耗しているものがよい。こうした先金は砥石で人為的に作ることが出来る が、それよりも使い込むにしたがって自然に角が取れたものの方がよい。そうして得られ た先金は案外長持ちする。筒は全くそうではなく、すぐに折り皺などから特に破れ始め、 使用に耐えなくなる。色糊を使った後は先金や筒は充分に水に漬けて内部の色糊の残留を 除くように心がけるが、ある程度先金内に残っていても、ネバを使い始める当初、ネバに 押し出される格好で先から出て来るので、それを取り除けばもう心配はない。屏風での糸 目はキモノの場合のように極力細いものにこだわらず、絵の表現にしたがって太細を調節 する方がよいが、全体としては真綿紬の繊維が比較的太くてざっくりした風合いがあるの で、比較的太めにする。そのため糊伏せはキモノの場合よりも気が楽な場合が多い。ただ し、4メートル近い生地を張り木に取りつけたままの状態で作業を強いられるから、キモ ノとは違って作業にしたがって少しずつ体を移動させ必要がある。この場合、昼間ならま だいいが、夜は照明を充分にして作業しないと生地上に適切な光度が得られないため、仕 事はかなりしづらい。そのためなるべく糊伏せは昼間にする方がよい。また、生地幅が大 きいため、生地の縦方向の中央部分は腕を伸ばし続けての作業となり、やはりキモノの場 合のようにははかどらない。全体の糊伏せを済ますには生地の周囲をぐるりと回りながら 順次作業をすることになる。そのため生地を張った周囲は、作業がしやすいように充分な 空きを確保しておく。糊伏せはある一定の面積を適宜区切って進め、終わった部分からお かくずを振るが、よぶんなおがくずを生地上から取り除くには、生地を片方ばかりに傾け ない。生地中央部分でおおよそ左右に分けておがくずを振り、それぞれ左右に生地は傾け て生地下の新聞紙などに落とすことを心がける。生地はほとんど垂直になる程度までに傾 けるが、ネバはまだ柔らかいから、この時にいくぶん傾けた方向に寄る。そのため次は反 対側に傾けておがくずを落とすわけだ。また糊伏せしている最中は生地を若干自分の側に 傾ける必要があるが、その時にすでに糊伏せの終わっている箇所のネバが生地の傾きによ って動き、糸目からはみ出すことがままある。こうした糊の動きによる失敗がないように 、またすでに伏せた部分を手の動きで侵さないように糊伏せすることは言うまでもないが 、キモノの場合よりも細かさの点では気をつかわずに済むが、作業のやりにくさはキモノ の比ではない。生地を張った下に新聞紙を大きく広げていてもおがくずはそれをはみ出し て飛散するから、仕事部屋の汚れが気になるが、糊伏せが全部終わるまでは散ったおがく ずを集めても無意味なので、そのまま作業をする。


  1,受注
  2,写生
  3,小下絵
  4,下絵
  5,白生地の用意
  6,青花写し
  7,糸目
  8,地入れ
  9,色糊置き
     11,豆汁地入れ
  12,引染め
  13,蒸し
  14,水元
  15,糊堰出し
  16,糊堰出し部の引染め
  17,糊堰出し部の彩色
  18,再蒸し、水元
  19,乾燥
  20,糊抜染
  21,彩色
  22,ロ−堰出し
  23,墨流し染め
  24,ロー吹雪
  25,ロー吹雪部の彩色
  26,ロー・ゴム・オール
  27,表具
最上部へ
前ページへ
次ページへ
 
『序』へ
『個展』へ
『キモノ』へ
『屏風』へ
『小品』へ
『工程』へ
『雑感』 へ
『隣区』へ
ホームページへ
マウスで触れていると自動で上にスクロールします。
マウスで触れていると自動で下にスクロールします。