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 二曲屏風『夏日』

●11 豆汁地入れ

下の写真はクリックで拡大します。


(図1)豆汁液で地入れをする。



(図2)裏側からも豆汁液を引く。


地が完全に乾燥してから豆汁を作って地入れをする。これはキモノの場合は何ら変わら ない。夏場は糊の乾燥が早いので注意を要するが、これはあまりに乾燥し過ぎると生地耳 が上方向にめくれあがり、それを無理に戻そうとすると、糊伏せした部分がパキリと音を 立てて割れるからだ。それは一見したところ目立たないが、確実にそこには染料が浸透す るし、場合によっては生地が裂けることがあるので、乾燥し過ぎた場合は霧吹きを使って 水分を散布する。全体の糊伏せが一気に終わる場合はよいが、何らの理由で中断し、先に 伏せ終えた部分がこうした乾燥のし過ぎ状態になることがある。そうした時も同様に霧吹 きで表面を湿らせる。全体の糊が充分乾燥すると、生地上から落とせるおがくずはブラシ でよく取り除く。これは何度も繰り返して充分に行なう。豆汁を引いた時に糊上のおがく ずが取れて、引き染めで染料が入る生地上に移動することがよくあるからだ。こうなった 場合はなるべくすぐに綿棒などを使って取り除く方がよい。おがくずが付着したまま生地 が乾燥すると、そこだけ引き染め後に色が変わるからだ。また、豆汁地入れの乾燥後にも ふたたびおがくずをブラシで除去することも心がける。真綿紬は生地が厚いがネバは伏せ た後にそれなりに裏側に浸透するから、豆汁濃度はキモノの場合に比べて特に差はない。 ただし、染料にどれだけの浸透剤を入れるかで豆汁地入れの効き具合も加減する必要があ るから、後の引き染めのことを考えて濃度は調節する。ここで説明している屏風は生地長 さがだいたい4メートルとすると、生地幅がキモノの反物の3倍ほどあるので、反物に換 算すると12メートルとなる。これはちょうど3丈物の反物と同じであるので豆汁もそれ と同じ目分量で充分だ。理論的には糊伏せした以外の部分、つまり次の引き染めで色が入 る部分に豆汁地入れが必要であるから、糊伏せ部分が生地全体の半分近い場合は豆汁の量 も半分でいいように思うが実際はそうではない。糊で伏せた面はすでに充分乾燥している から、糊伏せしていない面にのみ地入れをすると、生地を全体として見た場合、乾燥部分 と水分を含んで柔らかくなる部分が同居することになり、これは生地の張力の関係からも 好ましくない。そのため、豆汁は糊伏せ部分にも同じように引く。このようにすれば引き 染めする部分だけ地入れする場合よりも生地全体に同じ速度と同じ濃度で豆汁が行きわた るし、また生地全体に湿り気が戻って、生地が部分的に乾燥して引きつりが生じていた箇 所も解消される。乾燥のために生地が引きつってたわむことはしばしばだが、豆汁地入れ 後しばらくしてもそれが元に戻らない場合は、その部分に別にもう1本伸子を使って生地 をぴんと張る。乾燥による生地上の皺はそのまま引き染めした場合に色の差になりやすい からだ。生地全体を充分に地入れした後は元に戻って生地を裏返し、また全体を豆汁で引 く。つまり裏表とも水分を与えるわけだが、特に引き染めで染料が入る部分を重点的に刷 毛で水気を馴染ませる。色糊を使用した部分はよほど色が濃くない限りは豆汁で色が生地 上に滲み出ることはないので、ネバ糊部分と全く同じように考えて地入れをすればよい。 生地裏から地入れをする場合、伸子の腹が生地表面に付着しやすいが、これはあまり好ま しくないので裏からの地入れは表側とは違ってなるべくすばやく済ませる。また豆汁で濡 れた生地に染料が付着しないように、伸子は常に染料の汚れを抜いておく必要がある。


  6,青花写し
  7,糸目
  8,地入れ
  9,色糊置き
  10,糊伏せ
     12,引染め
  13,蒸し
  14,水元
  15,糊堰出し
  16,糊堰出し部の引染め
  17,糊堰出し部の彩色
  18,再蒸し、水元
  19,乾燥
  20,糊抜染
  21,彩色
  22,ロ−堰出し
  23,墨流し染め
  24,ロー吹雪
  25,ロー吹雪部の彩色
  26,ロー・ゴム・オール
  27,表具   1,受注
  2,写生
  3,小下絵
  4,下絵
  5,白生地の用意
  
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