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 二曲屏風『夏日』

●27 表具

下の写真はクリックで拡大します。


(図1)完成作を少しだけ広げた状態。
背景は天井。



(図2)裏面は紺色の別布。
桟は黒の艶消し塗り。
桟の小さな穴は本体の台に留める釘の頭。



(図3)裏面。やや下方中央に見える
横筋は蝶番の切れ目。



(図4)『’99京都美術工芸展』に出品。
優秀賞受賞


地を自分でパネルに釘などで止めて作品とする人もあるが、ここでは当初から屏風仕立 てにすることを想定して染めて来た。青花で記した生地上の糸目による印を表具屋に示し 、屏風の上端や下端、それに左右の端をよくわかってもらう。裏打ちの段階で生地に湿り 気が与えられるため、また生地はわずかに伸びる。その湿った状態で糊づけした和紙を裏 打ちしし、そのまま乾燥板に貼りつけて自然乾燥を待つが、生地が伸びた状態で和紙を貼 るために、乾燥後に生地はほとんど縮まない。そのため、湿り気を与えて伸びた状態の寸 法で最終的に仕上がると思って差し支えない。そしてこの時の伸びが最初に生地を買った 時の長さのほぼ3パーセントに相当する。それを見越して下絵を描いていたので、屏風に 仕立てた際に大幅な絵のズレは生じない計算だ。だが、実際はいつもそのようにうまく行 くとは限らない。そのため、屏風の上端か下端のどちらか一方の位置を厳密に決め、そこ からもう片方の方向に対しては、伸びあろうとなかろうと成り行きで表具してもらうよう にするしかない。つまり厳密に決めた上端ないし下端の絵の位置はそのまま仕上がるが、 もう一方の端は1、2センチ程度の絵の伸縮があっても全体の構図にあまり影響しないよ うに予め絵を描くわけだ。一方、生地の幅方向の伸縮は筆者の経験からはほとんど無視し てよい。中央の蝶番い部の位置を決め、屏風の両端部は成り行き指定とする。それでも大 体は想定していた生地幅にちょうど収まってくれる。ここで使用した真綿紬は横糸がかな り目立つので、屏風に仕立て上がった時にそれらの横糸がどこもぴたり水平になるように 注意してもらう。表具における生地の伸縮は運任せのようなところがあり、仮に乾燥した 時にぴったり170センチの高さになるように表具してほしいと伝えてもそれは不可能だ 。あくまでも生地は縦方向にはよく伸びることを計算して最初に構図を決める必要がある 。ここで述べている作品では上端を固定して下端は成り行きに任せたが、幸い予想以上の 伸縮はなく、当初想定したとおりに仕上がった。また、裏打ちの乾燥後に寸法を測り、そ れから屏風の台を作ってもらってもよいようなものだが、裏打ちした生地を下貼りを済ま した台に貼りつける際にも実際は若干の伸縮があるから、結局こう方法も作者が屏風完成 時の厳密な絵の寸法を規定出来ることにはならない。
 こうした思いどおりの絵に仕立て上がらない危険を考えて、和紙を裏打ちせずに生地を そのまま台の6分程度の厚み部分での糊づけで表具を済ませる方法も勧める表具屋もある 。これは素人にはわからないが、大きな屏風になれば全体がぶよっとした感じになって、 裏打ちしたようなすっきりした印象を与えない。やはり、正式に裏打ちした状態で台に貼 りつける方がはるかによい。屏風中央の折れ目、すなわち蝶番いのある縦方向部分での絵 合わせをするために、裏打ち作業を何度が繰り返してもらう必要が生じる場合も時にある が、そうした多大な労力を費やしてでも最初の下絵どおりにぴたりと仕上がることを期待 するしかない。また、棧を取りつけるかつけないか、取りつける場合はどのような素材で どういう色にするかという問題や、屏風裏面の生地の色をどうするかなど、作者が指定す べき問題は少なくない。そうしたことも含めて表具屋と相談し、どういう状態で表具作業 が進むかの知識を深めて行くに越したことはない。また、屏風は伝統的な形や構造をして はいるが、作者の自由な発想によっていくらでも改変されるべきものであり、そうした新 しい工夫のアイデアがあれば表具屋と相談して試みるのもよい。棧ひとつでも本格的な漆 塗りを依頼すると表具代以上に費用を要することがあるから、変わった色の棧がほしい場 合は自分で着色することを考えるのもよい。また、屏風の台は昔と違って今は出来合いの うすい寸法のもの以外になかなか入手出来ないから、古屏風のそれを使い回しするのもよ いが、そうすると今度はその厚みに合う棧を誂えで作ることになり、これも高価につく。 屏風の厚みがあるほどに長年の間に反りの生じる度合いが少ないが、特別に厚い台を作っ てもらうにはかなりの出費を覚悟する必要がある。このように屏風は材料費がキモノ以上 に高くつくうえ、また保管場所も必要で、売れる当てがなければなかなか次から次へと作 り続けることは難しい。仕上がった屏風を保管する段ボール箱はそうした工場で誂えても らう。これは輸送用にも使用出来る。屏風の輸送には美術専門の運送業者に依頼する方が 無難だが、よく知られる普通の宅配強者でも請け負ってもらえる。ただし、段ボール箱の 外側両面をうすい合板で挟むなりして、先の尖ったもので突き破られないように防御策を 講じなければ運んでくれない場合がある。


  21,彩色
  22,ロ−堰出し
  23,墨流し染め
  24,ロー吹雪
  25,ロー吹雪部の彩色
  26,ロー・ゴム・オール
  1,受注
  2,写生
  3,小下絵
  4,下絵
  5,白生地の用意
  6,青花写し
  7,糸目
  8,地入れ
  9,色糊置き
  10,糊伏せ
  11,豆汁地入れ
  12,引染め
  13,蒸し
  14,水元
  15,糊堰出し
  16,糊堰出し部の引染め
  17,糊堰出し部の彩色
  18,再蒸し、水元
  19,乾燥
  20,糊抜染
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