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 二曲屏風『夏日』

●13 蒸し

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(図1)全面に新聞紙を当てて太く巻く。


モノの反物の同じように、染め終われば張り木から静かに外し、乳布は縫いつけたまま 、古新聞紙で糊伏せ部分を当てて全体を太く巻き、蒸し工場に持参する。この時、雨に濡 れてはならないから、太く巻いたものを何にくるんで持参するかという問題がある。筆者 は広幅の生地の反物が入れられていたビニール製の袋を用いているが、こうしたものがな い場合、巻いた生地が折れずにしかも濡れないように合理的に何かで包み込むことにする 。このように用意した包み道具は、後の湯のしにも使用出来る。生地を張り木から降ろす 頃合は、糊が乾燥し過ぎると糊割れが生じ、湿り過ぎていると蒸しで糊が垂れるので、適 当な固さを見計らう。そのため、蒸し工場の休日を考慮して引染めを行なうことも必要だ 。水元は自分の家で行なうことを告げ、染めた色の濃度を考えて二度蒸しなどの指定をす る。キモノ専門の蒸し工場では広幅ものはある程度注文が溜まってからまとめて蒸し釜に 入れる場合が多い。また糊の乾燥の具合によってはひび割れの恐れがあるので、生地耳を 蒸し箱の留め金に引っかけて屏風たたみにして収めることが出来ず、蒸し釜内にロープを わたしてそこに垂らして蒸しをかける場合もある。広い生地の全面にまんべんなく蒸しの 蒸気を当てるには、工場としてもそれなりの工夫も必要だが、依頼者からすれば、蒸し終 わったものを見たところでどのように蒸しがしっかりと行われたかはわからない。そのた めにも二度蒸しを依頼する方がよい。また広幅を扱い慣れない工場では思わぬ形で生地に ボイラー燃料の重油の煤が付着することもある。これが黒く斑点となった場合は通常の地 直しではなかなか抜けず、また抜けたように見えても年月を経るとふたたび浮かび上がっ て来る場合が多い。蒸し工場でのこうした失敗は予測不可能であり、また保証してもらえ てもせいぜい地直し代であり、割り切れない思いにさせられることがたまにあるが、全部 が自分の思いどおりに統率出来ないところにまた染色の陶芸に似た面白さもあると思うし かない。蒸し終わった生地は、持参した時とは違って折りたたまれていることが多いが、 これは蒸し釜から出してまだ糊が柔らかい間にそうされたもので、糊が割れることはない 。その代わり、蒸しの際に糊面に当てられた新聞紙が柔らかくなった糊にこびりつき、新 聞紙をはがす時に糊が一緒に剥がれることがよくある。そのためにもし蒸し後にまた引染 めをしたい場合は、折りたたまれた生地をまたうまく平らにして張り木に取りつけ、糊が なくなった部分はもう一度伏せる。蒸し後はよほどの計画変更がない限りはもう一度引染 めすることはないが、より濃い地色にしたい場合、一度蒸した後にさらに色を重ねる方が 、最初から一度で所定の濃い色を染め上げるよりはるかにいいことは言うまでもない。ま た、極端に濃い色はそのように途中で蒸しをかけ、さらに引染めした後にまた蒸しをする という工程を踏むべきだ。このようにした方が水元で流れる染料はうんと少なくて済むし 、発色の度合いもよい。使用した伸子は針先部に引染めの色が付着しているので色を抜い ておく。


  
  6,青花写し
  7,糸目
  8,地入れ
  9,色糊置き
  10,糊伏せ
  11,豆汁地入れ
  12,引染め
     14,水元
  15,糊堰出し
  16,糊堰出し部の引染め
  17,糊堰出し部の彩色
  18,再蒸し、水元
  19,乾燥
  20,糊抜染
  21,彩色
  22,ロ−堰出し
  23,墨流し染め
  24,ロー吹雪
  25,ロー吹雪部の彩色
  26,ロー・ゴム・オール
  27,表具   1,受注
  2,写生
  3,小下絵
  4,下絵
  5,白生地の用意
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