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 二曲屏風『夏日』

●18 再蒸し、水元

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(図1)再蒸し後の水元。


堰出し部の引染めや彩色など、必要な染色が終われば、また蒸し工場に持参して蒸しを してもらう。糊伏せ後の引染め終了時と同様に、生地を静かに張り木から外し、乳布をつ けたままの状態で太めに巻き、雨などの水気がつかないように運ぶ。ここでは黒に近い濃 い色を挿していることもあって二度蒸しをした。引染めに浸透剤を類を使用していると、 そのうえに挿した濃い色は水元で流れやすいので、蒸しは入念にしてもらう。後の工程で 難が生じにくいようにと考えるのが染色工程の大きな鉄則であり、無闇に染料や助剤の過 剰な使用をすれば、仮に水元を蒸し工場の豊富な水量による専門化の手作業に委ねたとし ても失敗は充分起こり得る。そうなった場合、外注へ責任転化する以前に自分の無謀な染 色方法を省みることが大切で、もし過度な濃い色を得たいのであれば、一度蒸し水元をし た後にまた染め重ねることを繰り返す。顔料とは違って透明感のある染料は、染め重ねる ごとに先に染めた色がそのまま足された状態として見えるが、その特徴をどう活かして表 現するかが作家の腕の見せどころで、染色独自の意義もそこにある。また、染料にこだわ らず、糊伏せやロー伏せの防染効果に着目して顔料で染める方法もあり、これはこれで染 色の大きな世界になっているが、ここではその技法は使用しておらず、染料の染め重ねに よる効果を最大限に活用した表現を採っている。さて、蒸しから戻って来た生地を風呂場 の浴槽に漬けて糊を除去する作業は、先の蒸し後の水元と全く同じことの繰り返しで、こ こでは詳述はしないが、すでに地色が染まっていた状態に今度は絵となるひまわりを濃淡 含めて複数の色で染め出したから、水元は前よりもっと気を使う。なぜなら、前回の水元 ではもし地色が白場を汚したとしても抜染剤でそれらを抜くことが出来たが、地色が染ま って完成しているところに新たに別の染料が付着すれば、当初の計画を大きく変更して新 たな作業を強いられるからだ。ここでは白上げとなる日輪の地に黒に塗り切った葉の部分 があるので、日輪部の糊は浴槽の中でなるべく最後に除去し、あまり染料が流れ出なくな った頃に落とすといった安心のある順序を取る。
 5回程度の水元を繰り返すとほとんど浴槽の水には染料が流れ出ない。そのままの状態 であまり長く水に漬けておくと、夏場の水温が比較的高い時期では濃い色が他の部分に染 みつくことがあったりする。これは一概には言えないが、後者の要因の方がはるかに大き く、湯は絶対に使用してはならない。水元段階での染料の打ち合いはほとんど修正が出来 ない失敗であるので、5回程度の水元を繰り返す過程においても浴槽から生地の一時的な 引上げはごく短時間にするように務め、浴槽の水は蛇口の最大限の水の流出によって出来 る限り早く浴槽に新たな水を張りながら、なるべく早く浴槽に戻す。浴槽に水が溜まる間 も生地を動かし、濃い染色部分際の糊表面の染まった部分はブラシで素早く落とす。ここ で説明している作品では、一応この水元が自宅で行なう最後のそれと計画していたもので 、次にもう一度蒸しをして今度は工場で揮発水洗をしてもらうことになるが、その段階で は糊は落ちないので、糊分を可能な限り落とす気持ちで作業をする。揮発水洗でも糊は落 ちるように思うが、ゴムやローが落とされるだけで、微細な糊分の除去はされない。その ためこの水元が乾燥した段階での生地の風合いが、ゴムはまだついてはいるが、最終的な それとほぼ同じと考えてよい。


  11,豆汁地入れ
  12,引染め
  13,蒸し
  14,水元
  15,糊堰出し
  16,糊堰出し部の引染め
  17,糊堰出し部の彩色
     19,乾燥
  20,糊抜染
  21,彩色
  22,ロ−堰出し
  23,墨流し染め
  24,ロー吹雪
  25,ロー吹雪部の彩色
  26,ロー・ゴム・オール
  27,表具   1,受注
  2,写生
  3,小下絵
  4,下絵
  5,白生地の用意
  6,青花写し
  7,糸目
  8,地入れ
  9,色糊置き
  10,糊伏せ
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