『工程』トップへ



 二曲屏風『夏日』

●21 彩色

下の写真はクリックで拡大します。


(図1)まだ染まっていない糸目内部を
筆で彩色する。



(図2)ゴム糸目は取り除かれているが、
花弁や花の中心部のぼかし彩色に注目。


義の意味での彩色、つまり筆による挿し友禅の工程だが、キモノで文様部分に相当する 絵の大半はすでに糊の堰出しによってもっぱら染めたから、ここでの仕事量はさほど多く ない。広幅生地はキモノの反物のように生地を巻いて小張り伸子を取りつけたコンパクト な形に出来ないこともあって、どちらかと言えば挿し友禅には不向きだ。だが、屏風の絵 全部を糊伏せと堰出しの表現に頼れるのは、そうした効果だけを最初から考えて描いた構 図である必要があり、筆者はそのような屏風を染めたこともあるが、ここで述べているよ うな多色でしかも細かい部分と比較的大きなフラットな色面が同居する絵の場合、挿し友 禅による部分をいわば糊伏せと堰出しの間の緩衝区域のような形で差し挟む必要がどうし ても出て来る。何度も書くように、もちろんこうしたことも小下絵で綿密に計画を立てる が、糸目を可能な限り最後まで残しながら、その間に何度の蒸し水元を行なえば、挿し友 禅に頼らなくてもよい部分が出来る限り少なくなってそのほかの面積の染色が終わってく れるかという一種のゲームに似た感覚を、絵の構成と技術的工程を同時に検討しながら発 揮するわけだ。さて、ここで彩色に頼った箇所はひまわりの黄色い花弁すべてと、屏風左 右下端のゴッホのひまわり模写区域と円形の文字列2行だが、これらは小下絵では明確に 配色を決めていなかった。それでもかまわなかったのは、これらは糸目でくくられた小区 域であり、ある程度うすい色をまず適当に染めておけば後でもっと気に入った濃い色にい くらでも変更が出来るからで、実際のところは小下絵では配色が決められなかったと言う 方が当たっている。ほとんど重要な配色が目の前に実物として仕上がって来たところで 初めて、全体から見れば付随的な細部の配色に考えが及ぶということだ。ゴッホのひまわ り模写に関しては、実物のゴッホの絵と同じようなカラフルな配色を当初は想定したが、 それでは肝心の中央の大きなひまわりと色が調和せず、もっと地味にする必要を感じた。 それで濃い錆びた草色を中心に同系色や灰色濃淡でまとめた。また、右扇の円の列だが、 これは糊堰出し後の引染めでは黄色にひとまず染めたが、ひまわりの花弁に黄色を挿した 段階で全体を眺めたところ、もっと渋い色がよいことに気がつき、結果的にはゴッホのひ まわり区画と同じ配色にすることで左右のこれらの付属の絵の釣り合いを取った。こうし た屏風下端の付属の絵は小下絵ですべて想定していたもので、屏風全体から見れば不自然 でわざとらしい添え物に見えかねないかもしれないが、実際は構図上からはこの両端に何 らかの別の絵の要素が支えなければ中央のひまわりは安定しない。ひまわりを写実的に近 く描いてはいるが、屏風全体としては雲や日輪の存在など、文様的な処理が重要な要素と して同居した絵であって、そこにさらに装飾的とも言える要素を構図上重要な箇所に配置 するのは絵を全体として豪華にこそすれ、夾雑物の集合にはならないと考える。そうした 個々の絵の要素の解読はまた別の項で述べるべき問題であるので、ここではこれ以上立ち 入らないが、キモノとは違って屏風となれば絵画のあらゆる歴史や観念が前に開けている から、それらと対峙して何をどう汲み取って自己表現するかは当然の心がまえとなること だけを言っておこう。また、これは仕上げの仕事に属することだが、糊伏せや堰出しで糸 目際から少し糊がはみ出したために色が染まらなかったごくわずかな箇所があちこちにあ るはずで、そうした箇所は全部面相筆によって丹念に色を埋めておく。この作業はよほど のことがない限り色は泣くことがないので電熱器で炙らなくてもよい。


  16,糊堰出し部の引染め
  17,糊堰出し部の彩色
  18,再蒸し、水元
  19,乾燥
  20,糊抜染
     22,ロ−堰出し
  23,墨流し染め
  24,ロー吹雪
  25,ロー吹雪部の彩色
  26,ロー・ゴム・オール
  27,表具   1,受注
  2,写生
  3,小下絵
  4,下絵
  5,白生地の用意
  6,青花写し
  7,糸目
  8,地入れ
  9,色糊置き
  10,糊伏せ
  11,豆汁地入れ
  12,引染め
  13,蒸し
  14,水元
  15,糊堰出し
  
最上部へ
前ページへ
次ページへ
 
『序』へ
『個展』へ
『キモノ』へ
『屏風』へ
『小品』へ
『工程』へ
『雑感』 へ
『隣区』へ
ホームページへ
マウスで触れていると自動で上にスクロールします。
マウスで触れていると自動で下にスクロールします。