白生地:広幅ものとキモノの反物
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在の手描き友禅のキモノ業界は、完成に至るまでの工程数が多いため、分業生産が基本
となっている。江戸時代の浮世絵版画製作のように、最初の絵を描く者がそれ以降の工程
を弟子あるいは外注に任せることで、技術的に高度なものとしての完成作を保つことは友
禅染にも歴然と存在し続けて来ている。京都の友禅染には長年のそうした各工程に携わる
職人たちの体系と、仲間問屋、前問屋から小売店へとつながる確固とした商品流通経路が
あるが、キモノ離れがますます進むなか、安い工賃を求めて諸外国で製造することはとっ
くの昔にあたりまえとなり、国内の職人はせっかくの技術はあっても思う存分にそれを発
揮したものを作り得ず、型どおりの無難で安易な流れ作業的な商品の量産に追われるのが
現状となっている。そのように染められるキモノが100年や200年後に、過去を如実
に反映した価値ある骨董品となっていることもあるいはあろうが、昭和の好景気に量産さ
れたキモノを品質に厳しい現在の目で眺めれば、全くの素人仕事と言えるようなものが少
なくない。もちろんそうした消耗品としての仕事はいつの時代にもあったであろうし、そ
の反対に染織作家の作品は、個性があまりに強烈に表現されて、着る人そっちのけで衣装
が主役となってしまい、絵画的に鑑賞するにはまだしも、とても着用には向かないという
場合もあるだろう。ここでは自作品の芸術性に関して主張はひとまずおいて、ほとんど全
工程をひとりでこなし、京都でも珍しい手描き友禅作家として、友禅染とはいったいどう
いう技術や工程で仕上がって行くものであるかを説明する。
現代の友禅は糸目による表現を主体としつつ、そこに他の技法を混在させることで多様
な染色が行なわれている。ここでは近年制作し、工程順にリヴァ−サル・フィルムも撮っ
ていたキモノと屏風というふたつの形を取り上げる。キモノとしては染める面積が最大の
振袖と、そしてそれとほぼ同じ大きさの2枚折りの屏風を例に挙げるが、同じ友禅染であ
るため、当然どちらも似た工程を辿る。だが、筆者に限ってもいつも同じ工程では製作は
しないし、ある一部の工程を省略したり、あるいは反対にある特定の工程を何度も繰り返
す場合もある。たいていは個々の作品によってどのような技法や工程がふさわしいかを最
初に決めるが、作業途中の思わぬ失敗を克服するために、当初の予定にはなかった工程を
加えることもある。したがってここで説明する工程は厳密に分類されるべきものではなく
、手元に保存している写真によって分けている側面があり、また応用の利く基本的なもの
の説明に重点を置いていることを認識されたい。専門店でしか入手できない道具や材料、
それに面積が大きいほど便利な作業場のことを考えれば、キモノや屏風といった作品をひ
とりで友禅染で作るには、染料や生地を扱ったことのない素人ではまず無理と言ってよい
。そのためここにおける細部にわたる説明は、専門家を目指す人以外にはあまり意味がな
いだろう。だが、手先が器用で絵心のある人ならば、友禅染の技術は決してひとりで学ん
で習得できないものではない。参考となる技法書は最低限度の工程説明に終始しており、
失敗しやすい肝心の点についてまでには言葉が至ってはいない。それは紙面のつごうもあ
るが、作家個人が秘密として保持している方が真似されないという商売上の考えも大きい
。工程がすべて明らかになり、同じ道具や材料、同じ技法に頼るとしても、作家の神髄ま
では模倣はできないものだ。作り手が違えば作風は自ずと変化し、技術的に高度な作品に
もなれば見るに耐えないものもできる。また、ここでの工程の基本は小さなサイズの作品
を染める際も全く同じであるし、技術の錬磨を要する糸目の工程を省いた友禅とは呼べな
い染色を行なう場合にもヒントとなることは少なくないであろう。なお、各工程の説明は
最初に説明する振袖で多くの文章を費やさぬように、屏風に回した事柄が少なくない。そ
のため、双方を行きつ戻りつしながら合わせて読んでいただきたい。掲載写真は残念なこ
とにホ−ムペ−ジ用を念頭に撮影したものではないため、ピントがかなり甘いものしか提
供できない。他の工程の説明も兼ねて、今後新たな作品の工程説明時にはもっと詳細で多
くの画像を用いたい。
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