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ロ
−伏せで堰出した部分にそのまま胡粉を引くと、全面が白くなって固くなるだけで、あ
まり意味がないし、また通常はそうしたことはしない。ここでは生地の光沢と胡粉の艶消
しを同居させることで蒔絵のような効果を出す。そのためには細かい吹雪状にロ−を生地
上に置く必要がある。これはロ−をしぶき状にして定着させるが、細かい吹雪状のロ−を
得るにはローの温度が高い方がよい。またコンプレッサ−をつないだエア・ガンならば、
粒がよく揃った状態のロ−吹雪作業を短時間で済ますことができるが、それはもっぱらロ
−吹雪を多用するプロに限られる。そうした機械を使わずに簡単な道具による手作業でも
同じような効果は得られる。簡単な方法ではスプ−ンの匙上でロ−をつけた筆をしごくこ
とでもよいが、大きな面積をむらなく撒くには適さない。電熱器で加熱しているロ−は刻
一刻と状態を変えるから、なるべく短時間にロ−吹雪を行なうことが望ましい。そのため
筆者は毛が黒くて硬い山馬(さんば)の平刷毛を使用し、金属の重い棒の上で叩くことに
している。この棒は硬いものならば何でもよい。山馬の刷毛はしけ引き染めと言って、染
料をつけて真っ直ぐに引き、細い隙間がやや不揃いになった数多くの長い平行直線を得る
技法にもっぱら使用される。同時に複数の色をつければ1回で多彩な線の集合が生まれる
が、しけ引きはそれだけを専門の作家がいるほどに、技法は多彩かつ多様に存在する。こ
れは束ねた筆でも得られない効果だ。山馬の刷毛は馬ではなく鹿の毛を使用しているが、
とても高価で、ロ−吹雪に使用すると毛がよく抜けることもあって、その他の刷毛や筆で
試すのもよい。道具が異なれば予想外のことができることが多いので、いろいろ試すこと
は染色においては日本画以上に重要なことと言える。
ロ−吹雪はたくさんのロ−の粒が部屋中に撒き散らすので、ローのしぶきが飛びそうな
ところには新聞紙を隙間なく貼り詰めておく。吹雪を施す箇所を新聞紙上に平らに置き、
その他の部分はきれいに巻き取って新聞紙などで隠し、生地裏面にロ−吹雪がかからない
ようにする。撒かれたロ−は当然堰出して胡粉を染める以外の生地部分にも付着するが、
それでもかまわない。そうしたロ−の跡は糊とは違って残ることはないからだ。ロ−吹雪
は刷毛から放たれた全部が付着せず、最も細かい粒は生地表面で冷却してそのまま丸い粒
となる。これが作業場の床にこぼれることによって床がつるつるになるので、ロ−吹雪が
終われば生地を傾けてそうした粒を払う。この際、ブラシなどで生地上の粒を集めてはな
らない。ブラシの毛の間に粒が大量に入り込むと同時に、生地表面のロ−が擦られて胡粉
を引くべき生地表面にローが付着して染料が浸透しなくなるからだ。そのため生地上に完
全にくっついていないロ−粒は、生地をひっくり返して下に落とすことに止める。ロ−の
配合はロ−伏せの場合と同じでよい。ロ−を入れた容器とは別にもうひとつ同じ容器を用
意し、中央部に1本の針金を差しわたして刷毛を容器上でしごきやすいようにする。電熱
器上のロ−から煙がやや目立って上るようになり、また山馬の刷毛の毛全体を充分にロ−
の中に浸した時に、細かい気泡が毛の中や刷毛の木の中から次々に出て来るようになった
頃以降がロ−吹雪をする適温だ。温度が低いと、生地上で直径1、2センチ以上の大きな
滴りができることがある。これはロ−のつけ過ぎでも起こるので、刷毛を充分に鍋上でし
ごき、いわば残ったわずかな分を吹雪にする。硬い棒の上で強く叩くとたくさんの粒が勢
いよく散る。生地からの距離は10センチから20センチ程度だ。手加減により、またロ
−温度によっても粒の散らばり具合は大きく異なるので、慣れることで自分の好みを定め
て行くしかない。ロ−の吹雪が固着した箇所は生地が透明に変化するので、吹雪の足りな
い場所ははっきりと見える。ロ−をつけては叩くことを何度も繰り返すことで、堰出しし
た部分に均等に粒が行きわたるようにする。ざっと全体の作業を済ましてから、今度は合
口が合うかどうかも確認しながら、もう一度全体の粒のバランスを整える。こうしたロー
吹雪の作業の間、別に用意した容器内にはしごかれて落ちたロ−がかなり溜まり続けるの
で、頃合いを見計らってはそれを元の容器に戻す。それでもその親となる容器では目立っ
てロ−が減って行くので、作業の途中で何度も新たにロ−の塊を溶かし込む必要がある。
容器内のローは加熱のために少しずつ焦げて来て茶色に変化するが、これは生地上に色と
なって残らないので心配する必要はない。また容器の中には刷毛の抜けた毛や埃などが固
まりとなって沈殿しやすいので、温度が高くて底がよく見える間にこまめに長いスプーン
や棒を使って除去しておく。ロ−吹雪はごく簡単に生地状に粒の集まりを作り出せるが、
同じようなことは糯米を使用してもできる。糊を刷毛などで生地に直接叩きつけたり、あ
るいは糊をうすい層として乾燥させ、それを砕いて篩にかけて粒を揃え、その乾燥した糊
粒を生地を濡らした表面に蒔いて接着させる撒き糊の方法などがそれに当たる。それぞれ
に粒の形は違うが、これは染色というものが手段が違えば必ずそれがそのまま染め上がり
の差となって現われるひとつの明瞭な事例の明瞭と言ってよい。
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16,水元
17,彩色(胡粉)
18,彩色(淡色)
19,彩色(濃色)
20,再蒸し
21,ロ−伏せ
23,地の彩色
24,ロー・ゴム・オール
25,湯のし、地直し
26,金加工
27,紋洗い、紋上絵
28,上げ絵羽
29,本仕立て、納品
1,受注、面談、採寸
2,小下絵
3,下絵
4,下絵完成
5,白生地の用意
6,墨打ち、紋糊
7,青花写し(下絵羽)
8,糸目
9,地入れ
10,糊伏せ
11,糊伏せの乾燥
12,豆汁地入れ
13,引染め
14,再引染め
15,蒸し
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