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 本振袖『四君子文』

●18 彩色(淡色)
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(図1)胡粉が終われば淡い色を挿す。




(図2)友禅に使用する筆。
左端はローケツ用。その隣りは未使用の彩色筆。右3本は使用中のもの。


粉が全部挿し終われば次にうすい黄色やピンク、水色といったうすい色を作って彩色し て行く。総絵羽の場合は1色で挿す箇所が多いので、1色ずつ小皿に作っては全部挿し終 える方がよいが、3、4種のうすい色を同時に用意して作業を進めてもよい。そのあたり のことはうすい色の彩色の進み具合とその染料の蒸発の見込みとの関係や、一方で大張り 伸子をいちいち張り換える手間といったことを考え合わせて適宜行なばよい。1色ずつう すい色を作ってはその色を挿すべき箇所を全部完成して次の色を作るということの便利な 点は、たとえばうすい黄色を全部挿し終えてその染料があまった場合、後で挿し忘れ箇所 が発見される場合のことを想定して、ほんの一部を別皿に取っておきながら、残りは次の ピンクなどを作る際に転用できる点でも便利だからだ。もちろん赤の濃い原液を先のあま った染液に加え、そしてピンクにうすまるまで水を足すのだが、先にあまっていた黄色分 がその中に含まれることで、かえって望みの色に落ち着いたりする。目的の色の染料を混 ぜて作り出すのはそこそこ経験が必要で、慣れない間はしばしば必要以上の量やあるいは 全く気に入らない色を作ってしまいがちだ。したがって、あまった色を別の色作りにそっ くり使い回し出来るようになるには、独自の色作りのこつを経験的に覚える必要があるの は言うまでもないが、環境汚染の立場からも作った染料はなるべく残して捨てないように 心がけて、無駄のないような仕事を目指したい。所定の色に作った染料はそのままでは水 と同じく浸透性が強いので、作った染液の中に糊分を入れて泣きを防止する必要がある。 糊糸目の場合はそうしたことはほとんど必要ない場合が多いが、ゴム糸目では泣きやすい ので、いわゆる「泣き止め」になる何らかの糊剤を入れる。これは染料店が独自に作った ものをいろいろと売っているが、基本的にはアルギン酸ソ−ダを使用している。これは粉 末で売っているものに水を加えて一晩寝かすことで粘度の高い液体を作れるが、予め防腐 剤も最低限度混入して作った粘液状のものが瓶詰めされて売られているので、これを使う と便利だ。アルギン酸は無色透明で、染液に混ぜて筆でしばらくかき回すとすぐに混じる 。加熱する必要はないが、念のために染液に注ぎ電熱器の上で溶解させると、染料の腐敗 も妨ぎやすい。彩色小皿の8分目の染液に対して小さじ1杯程度で充分だ。また、カゼイ ンとは違ってアルギン酸は蒸しで生地に固着はせずに水元で洗い落とせる。ただし、工場 での水元作業は機械化されていることもあり、彩色が終わって持ち込まれたものはまず染 料定着剤に浸され、その後充分に水洗いしない場合もあり、アルギン酸などの泣き止め剤 が残留して彩色箇所が全体にこわばったようになることもあるので、理想を言えば泣き止 めは使わないに越したことはない。アルギン酸使用にはそうした後のことを念頭に置いて 程度を考える。また泣き止め防止とはいえ、あまりに染料がねばつくとぼかしがうまく行 かず、染めむらにもなりやすい。それに乾燥も遅いので仕事がはかどらない。また、胡粉 を挿し終えた部分と隣り合った箇所の彩色では、胡粉が堰の役目をある程度果たすことも あって胡粉側には泣きにくいが、染料の場合でも泣き止めを入れて彩色した部分はある程 度は胡粉と同じように堰止めの効果がある。そうしたことも、うすい色から順に染めて行 くのがよい理由で、泣きはかなり防止できることになる。
 使用する筆は染液の含みのよいものを選ぶ。また比較的細かい部分でもいちいち面相筆 など使用せずに同じ1本の筆で挿せるように、穂先が尖って整ったものを使う。色ごとに 筆を決めておくのがよく、だいたい20本ほどあれば充分間に合う。色のついていない未 使用のものも必ず用意しておき、もし染料を挿してはならない箇所や色を間違って挿した 場合、そうした新品の筆でその部分を応急的に洗って、付着した色をうすめておく。染液 は彩色用の白の磁器性の小皿が使いよい。この皿の8、9割用意した染料は、思ったより たくさんの面積を彩色することができる。使用中や数時間休憩している間の蒸発分は皿の 周囲に色の輪筋ができることなどでも確認できるので、頃を見計らって少し差し水をする 。入れ過ぎると今度は加熱して蒸発させればよい。うすい色はむらになりやすく、うすい とはいってもそれは目立つ。そのためにもうすい色の場合は界面活性剤を1、2滴皿に落 とすとよい。これは浸透性もよくするので、アルギン酸ソ−ダの泣き止め効果とは反対の 効力を持つこととなり、彩色時には粘りの抵抗がありつつ、滑らかに筆が動くといった奇 妙な感触がある。色を挿して行く時、糸目で囲まれた範囲のどこから始めればよいかは、 時に気を配る必要がある。数筆で挿し終わるような比較的小さな部分ならばよいが、もっ と面積の広い場合や、また2方向に別れている場合は、途中で筆を休めればそこがむらに なるので、どのような速度でどのように筆を運ぶかが問題となる。もっとも、そのような 困難な彩色箇所がなるべくないように、つまり広いベタ塗り面積がほんのわずかな糸目1 本の先で分割されるように花や枝などを少し大きく、あるいは長く描くなどして下絵を工 夫して描いているものだが、ある程度は彩色困難な箇所をあえて含むことで全体としての 下絵にめりはりが出るから、広い面積をむらなく彩色しなければならないケースはままあ る。そしてこうした比較的広い部分は大張り伸子が乾燥の邪魔をして、伸子跡が濃くなっ て現われることがあるので、よく生地の裏面の状態を確認しながら、色を挿し終わればす ぐに大張りの位置を変えたり、あるいは片方の大張り伸子の手前の方の釘先を生地耳から 外しつつ、同じ伸子のもう一方の向こうの先が生地から外れないように全体をしっかりと 手で押さえながら、色挿しした部分が障害なく電熱器の熱にまともに当たるようにして一 気に乾かす。


  11,糊伏せの乾燥
  12,豆汁地入れ
  13,引染め
  14,再引染め
  15,蒸し
  16,水元
  17,彩色(胡粉)
  19,彩色(濃色)
  20,再蒸し
  21,ロ−伏せ
  22,ロ−吹雪
  23,地の彩色
  24,ロー・ゴム・オール
  25,湯のし、地直し
  26,金加工
  27,紋洗い、紋上絵
  28,上げ絵羽
  29,本仕立て、納品
     1,受注、面談、採寸
  2,小下絵
  3,下絵
  4,下絵完成
  5,白生地の用意
  6,墨打ち、紋糊
  7,青花写し(下絵羽)
  8,糸目
  9,地入れ
  10,糊伏せ
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