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 本振袖『四君子文』

●16 水 元
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(図1)糊を充分な水で洗い落とす。




(図2)糊を落とした後、生地を乾燥させる。


しをしてくれる整理工場では、依頼すれば蒸しの後に水元もついでにしてもらえるが、 わずかに糊があちこちに残ったまま乾燥されることがある。そうなった場合は、その部分 だけ洗い流そうとするのは見落としの恐れや、また生地のその箇所を必要以上に擦ったり する恐れもあるので、また全体を水に漬けて柔らかくしてからそれらのチリ糊を洗い落と した方がよい。そういった二度手間の懸念があるので、水元はできれば自分でやる方がよ い。ただし、糊伏せ後の重量と嵩のある1反の生地をすっかり浸すだけの水槽が必要で、 しかも作業の間、4、5回は連続して全部の水をきれいなものに入れ換える必要がある。 また湯に浸せば糊は生地から早く流れ落ちてくれるが、高い水温は生地に染まりついた染 料が溶け出させるので、絶対に湯は使用してはならない。そのため、水温の高い夏場には 氷を入れて冷たい水を冷やさねばならないこともあるほどだ。そのため冬場は冷たさで手 が痺れて感覚がなくなるほどだが、水は冷たいほど染料の最終的な発色や定着にはよい。 また糊や浮き出した染料で汚れた水は迅速にきれいな水に入れ換えなければ、糊で伏せて いた部分にうっすらと引染めの色が染まってしまうことがしばしばある。そうなればほと んど直すことは不可能に近く、水元作業はかなり神経を使う工程と言える。昔は河川を利 用して糊を洗い流していたが、糊で河川が汚れるというので今は禁止され、蒸し工場でも 地下水を汲んで人口の川を工場内に作って作業をしている。つまり、絶えずきれいな水に さらしながら糊を除去できるのが最もよいが、家庭ではそれが無理なので、浴槽に水を張 って、水道水を流し続けて作業をする。しかし糊は水に浸して最低30分を経ないと柔ら かくならない。その間、糊のうえに付いていた染料や豆汁、ふのり液などが流れ出して水 槽をすぐに不透明にしてしまうので、この30分の間に2度ほど全体の水を入れ変える。 できれば水槽に最初に漬ける直前に、生地を順にたぐり寄せながら勢いよく水をかけて、 ざっと表面をブラシで洗う方がよい。その段階で蒸しで定着し切らなかったかなりの染料 が洗い流されるからだ。ただし、そうして流れ出した濃い目の染料がまだ水に濡れていな い生地裏などにつくと、せっかく糊伏せしていた箇所が染料で汚れてしまうことになるの で、ブラシでざっと洗ったものから順に水槽にすかさず送り込んで行く。濃い地色を引染 した場合は特に色落ちが激しく、水槽の水が一気に深い色に染まることがあるので、蛇口 を全開させてきれいな水にすぐに入れ換える。染料が流れ出るのは蒸しが甘かったり、染 料が腐敗していたり、あるいは界面活性剤の入れ過ぎにも原因がある。界面活性剤は洗剤 成分であるので、色を洗い流す効果があるのは当然と言える。水槽の水を2、3度入れ換 えれば染料はほとんど流れ出ることもなくなるので、時々生地の向きなどを変えるながら 30分から1時間ほど浸す。生地全体がたっぷりと水槽に漬かり、生地表面が水面上に出 ることのないようにする。生地の向きを変える間にも伏せ糊が徐々に水槽の下に落ち、ま たそのことで水槽全体が糊で濁って不透明なベージュ色になるが、それでもかまわない。 気になるようであれば、適当に水を入れ換える。水中で生地を動かす時、もし生地耳が引 染めした面にあたかも刃物のように強く擦れると、生地が完全に乾いた時にそこが毛羽立 って白いスレとなって現われるので、水元は手荒くじゃぶじゃぶと洗濯する気分であって はならず、優しくしかもテキパキと水の中を漂わせる。
 ブラシはおがくずを掃く時と同じものでよい。タワシのような硬いものではなく、毛の 長さが2センチほどの洋服や靴に使用するようなものでよい。糊は充分に柔らかくなると 、ブラシで強く擦らなくてもすぐに落ちてくれる。ある程度ざっと落とすと、糊は水槽の 底に溜まり、水も不透明になるので、すかさずまた新しい水をすぐにいっぱいに張る。こ の作業を生地を水の中で揺らし続けながら、4、5繰り返すと、生地についた糊はすっか り落ちる。その後、落としたままの状態で水槽にしばらく漬けておくのもよいが、そのこ とで生地内部にまで浸透している糊分までがすっかり落ち切ることはない。それほどにネ バ糊は強力に粘着性のあるもので、どうしても生地の繊維内部には糊分が残る。この残留 糊分を完全に除去するために淡白質を分解する酵素を水槽に入れることもあるが、それは 水温が低ければあまり反応せず、しかも眼に入れば大変なことになる薬品でもあるので、 あまり使用は好ましくない。乾燥後、糊伏せした箇所がそれ以前の白生地の時に比べて、 ごくわずかにこわ張った感じにはなるが、それは後で柔軟にする方法もある程度はできる し、その糊の張りがかえって生地をぴんともさせると言えるので、さほど神経質になるこ ともない。しかし、それも程度によりけりであり、入念に水元を繰り返して、できるだけ 糊分を残さないようにするのは言うまでもない。きれいな水を張った水槽の中で生地を順 にたぐり、チリ糊が全くついていないことが確認出来れば、なるべくすぐに全部の生地を 30センチ感覚程度に屏風畳みしてコンパクトに整え、水槽から引き上げる。水元によっ て余分な染料や地入れ液がすっかり洗われて、表面にはゴム糸目を境にして地色が染まっ た部分とそうでない白地のい部分とがくっきり現われた状態になる。これで地染めが完成 したことになり、乾燥後に糊伏せしていた模様部分の彩色の作業に移る。水槽から引き上 げた生地はバス・タオルですっぽりとくるんで、それをそのまま洗濯機の脱水に30秒ほ どかけると。長く脱水すると屏風畳みした折れ目にスレが行く場合があるので、水分をざ っと取る程度に留める。その後ハンガ−に吊るして日陰干ししてもよいが、ハンガーの箇 所で折れたり、また全体に縦皺が行きやすいので、豆汁地入れした時と同じように張り木 に順に張って乾燥させる方がよい。張り木に張った後はすぐに小張り伸子を適当な間隔に 張るが、乳布との縫合部では強い伸子を張って皺が寄らないようにし、そのほかの場所は なるべく広い間隔で張って必要以上に使用しない。また張り木のロープは思い切り強く引 っ張らず、生地に自然な弛みがあるようにしておく。まだ水分が多くて下にポタポタと垂 れる場合は、乾いたタオルで生地の裏面からざっと拭っておく。この後は自然乾燥でもス ト−ヴを使用してもかまわない。


  11,糊伏せの乾燥
  12,豆汁地入れ
  13,引染め
  14,再引染め
  15,蒸し
  17,彩色(胡粉)
  18,彩色(淡色)
  19,彩色(濃色)
  20,再蒸し
  21,ロ−伏せ
  22,ロ−吹雪
  23,地の彩色
  24,ロー・ゴム・オール
  25,湯のし、地直し
  26,金加工
  27,紋洗い、紋上絵
  28,上げ絵羽
  29,本仕立て、納品
     1,受注、面談、採寸
  2,小下絵
  3,下絵
  4,下絵完成
  5,白生地の用意
  6,墨打ち、紋糊
  7,青花写し(下絵羽)
  8,糸目
  9,地入れ
  10,糊伏せ
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