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 本振袖『四君子文』

●29 本仕立て、納品
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立てが出来て初めてキモノは完成であり、仕立てがまずいとせっかくの染色も台無しと なる。関東と関西、また男と女でも仕立てに差があるので、よく相談に乗ってもらえて、 いろいろと教えてくれるような人を選ぶ。総絵羽のキモノは特に柄合わせが大変なので、 そうした特別なものによく慣れている人に依頼する。また、仕立て屋に出すには反物状態 に戻さず、上げ絵羽状態のままでもよい。その方が仕立て屋にとってどのように絵羽模様 がついているかがよくわかる。ただし、こうしたことを含めてどういう寸法や生地への柄 置きをしているかをよく伝え、当初想定した縫い位置どおりに仕立ててもらうようにする 。キモノの寸法は縫い線から縫い線までの厳密な距離計測するのではなく、縫い糸が裏か ら見えないように、あるいはきちんと畳みやすいように、合口の両側で1分程度の余裕を 持った位置で生地の折り目線がつけられる。これをキセと言うが、この寸法をどのように 予め想定しておくかで、最終的な仕立てで絵羽にずれが生じる場合がある。つまり、仮に 下絵段階で前幅が6寸、後幅を8寸とした場合、それらの身幅で模様がぴったり合うよう に絵つけすれば、本仕立てではそれぞれキセを差し引いた5寸9分や7寸9分といった寸 法にしなければ厳密には絵が合わない。そこで、キセ分を加えた寸法で下絵の身幅を設定 する必要があるが、このキセ分程度は実際の着用には何ら影響を与えないものであり、通 常はそこまで考えて下絵の身幅を決めることはない。ただし、そのことは仕立て屋によく わかってもらう必要がある。そうでないと、背中では柄が合っていても、前身頃側に向か うにつれて1分程度のずれの皺寄せが生じ、キモノの表の面はどうにか絵羽がぴったりと は合っているが、袵端とその裏面につながる八掛けとの模様が合わないことが生じる。仕 立て段階によるそうした絵羽のずれは、下絵を描く者と仕立て屋との間でのキセの考え方 の相違によるものがほとんどで、設定の身幅寸法内にキセを含んでいるのかどうか、もし 含めていないならば、1分程度身幅が少なくなっても柄合わせ優先にしてほしいといった ことを伝える。
 また水分がついてもそれをはじく防水加工を注文者から希望されることもあるが、これ は扱いやすさからキモノの形になっているより反物状の方が安くしてもらえるので、上げ 絵羽をする前に工場に持参して処理をしてもらう。こうした防水(溌水)加工はキモノを 汚れから護るので便利ではあるが、着用時に体温の発散が妨げられてむしむしすると言っ て嫌う人もある。また、展示焼けなどで褪色した場合、こうした加工を施してあれば染料 が生地に浸透しないので刷毛合わせをすることができず、防水加工を元に戻す処理を施さ ねばならない。直接の染色とは関係のないこうした付帯作業としては、他に注文者の意向 によっては、襦袢や帯、その他着用に必要な小物類の見立ても必要になる。襦袢は染め上 がったものを買い求めてそのまま仕立てに出すことが多いが、時には白生地に友禅で染め ることもある。これは本体の振袖と調和する地色や文様を考えるが、振袖ほどにはたくさ んの模様をつけることはしない。それでも袖裏まで模様を置く必要があるから仕事量は多 い。帯を見つくろうには、上げ絵羽した、あるいは仕立て上がったキモノを持参し、そし てできれば着用者を連れて西陣織りの織元に出向く。個性的なキモノの場合はそれなりに 凝った帯が調和するので、そうしたものを揃えているところで探す必要がある。キモノが いくらよくても帯が貧弱では駄目なので、キモノの格に充分応じた価格のものから選ぶ必 要がある。また、着用者が予めお気に入りの帯を所有している場合は、その帯の模様や地 色と合うキモノの柄を考えればよいので、誂えの作業もかなり気が楽となる。キモノと帯 が決まれば小物類は自ずと決めやすくなるし、比較的価格の低いこともあって選択はさほ ど困難ではない。こうして着用に必要なものが全部揃って成人式を迎え、できることなら ば写真館で撮影した着用写真を1枚送付してもらう。それは手元に残る仕事の証であると ともに、今後の資料としても役立つ。着用された段階で仕事が完全に終わったのではなく 、シミがついた場合の除去の依頼やその他細々したアフターケアが必要になることも少な くない。そうしたことも含めて対処できるように、仕事全般にかかわることに常に目配り し、すべてを統率して自分の支配下に置いた仕事をすべきと言える。下前袵に作者の落款 を染め抜くのは、そうした責任を負うことの証にほかならない。


  21,ロ−伏せ
  22,ロ−吹雪
  23,地の彩色
  24,ロー・ゴム・オール
  25,湯のし、地直し
  26,金加工
  27,紋洗い、紋上絵
  28,上げ絵羽
     1,受注、面談、採寸
  2,小下絵
  3,下絵
  4,下絵完成
  5,白生地の用意
  6,墨打ち、紋糊
  7,青花写し(下絵羽)
  8,糸目
  9,地入れ
  10,糊伏せ
  11,糊伏せの乾燥
  12,豆汁地入れ
  13,引染め
  14,再引染め
  15,蒸し
  16,水元
  17,彩色(胡粉)
  18,彩色(淡色)
  19,彩色(濃色)
  20,再蒸し
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