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蒸
し上がって来た生地はまた乳布毎のまとまりにほどき、ロー伏せの作業に移る。彩色を
した時と同様にまた大張り伸子に生地を張り、胡粉を引くべき地の部分の外側際の糸目線
上に筆でロ−を置いて行く。このロ−置きが染める部分を堰出す格好になる。またその堰
出された内部、つまり胡粉で染める広い地部分内に彩色した模様部分があれば、当然それ
も糸目の輪郭からはみ出さないように、輪郭内側ぴったりに模様部分全面をロ−で伏せる
。これは筆につけた熱いロ−が冷め切らない10秒そこそこ以内のごくわずかな時間で的
確に伏せなければならないため、慣れない間は失敗も多い。ロ−で堰出しするのは、後で
同じくローで生地表面に吹雪模様を施すためで、ローを置いた生地には、色を挿す時に電
熱器で炙る必要がない、あるいは炙れないからだ。ロ−を使用せずにネバ糊で伏せして堰
出しすることはもちろん可能だが、堰出しして胡粉で染める部分の面積は、紫色に引染め
した地色に比べるとかなり少なく、その少ない面積を堰出すために他の広い面積全体を糊
で伏せるのは非常に不合理でもある。糊伏せの項でも書いたが、刷毛がかぶる部分だけの
必要最小限の部分的な糊伏せを行なうと、糊を落とした後に、糊のあった部分とそうでな
い部分に色の差が出る。つまり、糊伏せするのであれば、胡粉を引く部分以外の全面を同
じ糊の厚さで施す必要がある。ところがロ−ではそうする必要はない。確かに、ロ−も糊
と同様に堰出し際以外の全面をべったりと伏せる方がよいが、堰出し際から2、3センチ
の部分のみのロー伏せであっても、ロ−を落とした後にその跡ははっきりと残ることはな
い。しかもロ−は糊のような乾燥を待つことなく、筆で置いた瞬間に乾燥する。そのため
、ロ−置きの後はすぐに染めることができる。この作業がはかどる点はローケツ染めの最
大の利点と言ってよい。ロ−は加熱されて溶けると、筆で自由に描けるような流動性を持
つが、筆につけた瞬間から急に冷め始め、生地のうえに素早く置かないと、ロ−がうまく
生地の裏にまで浸透してくれない。こうしたことが生じた場合、次の筆で熱いロ−をすか
さず被せれば、ある程度は先に置いた不完なロ−の浸透を解消することはできるが、それ
でもロ−のつなぎ目に不自然なことが生じがちで、一筆ずつ適温のロ−をつけ、直前に置
いたばかりのほとんど固まりかけているローをまたうまく溶かすようにしながら、なるべ
くつなぎ目がわからなくなるようにロー置きの順序を考えて作業を進める。
ロ−は天然のものと合成のものがあるが、通常は天然のものを使用する。天然のものは
動植物、鉱物、石油などから得られるが、もっぱら安価な石油から取り出したパラフィン
やマイクロクリスタリンワックス(単にマイクロワックスとも呼ぶ)を使用する。動植物
から得られるものはこれら石油から取れるものとは違うひび割れ方をするので、ロ−ケツ
染めの作家は独自にこれらさまざまなロ−を配合して使用している。パラフィンは融点が
摂氏50度から70度程度で、これを華氏で表示してたとえば120Pや130Pといっ
た表現で売られている。パラフィンは融点は低いが溶けてすぐには使用せずに、ある程度
温度が上がるのを待つ。筆で描いた時、ロ−の際が白くなって生地裏に浸透していないよ
うではまだ低めで、これがちょうど生じなくなった高温時がロ−伏せのベストな状態とし
てよい。サ−モスタットのついたてんぷら鍋ならば温度管理ができてよいが、電熱器にか
けられるものであればどんな容器でもかまわない。ただし、常に容器いっぱいにローを用
意する。これはローが容器から減るにしたがって煙がもうもうと立ち込めやすくなってロ
ーの高温度化が加速され、ロー置きのテンポが狂いやすくなるからだ。そのため、使用中
に容器の2割程度減れば、ロー置き作業を中断してその減った分を新たに固形のローを加
えることで元に戻し、容器全体の温度が適温に上昇するまで待つ。ローの容器には、筆に
つけすぎたロ−をしごくために、容器の上縁の両端を橋わたしする格好で、中央に1本の
銅線や針金などを取りつけておく。これは、容器の上縁でロ−をしごくと、それが時に電
熱器の上に垂れて燃え、引火の原因になりやすいからだ。使用中は絶えず電熱器のスイッ
チを入れたり切ったりしてローの温度があまり変化しないようにこころがける。温度が上
がるにしたがって容器中のロ−の表面が沸き立って来るが、ロ−伏せに最もよい状態はロ
−の表面から煙がほのかに立ち上がっている時だ。この煙の量が盛んにもくもくと上がり
始めれば必ずスイッチを切る。すると今度はロ−の温度が下がり始めてやがて煙が出なく
なるので、そうしたらまた電熱器のスイッチを入れる。こうしたことはロ−を温度計で計
ったりせず、経験で覚える方がよい。というのはロ−伏せは冬と夏では条件がかなり異な
るからだ。そのためパラフィンは融点の違うものを揃えて季節によって使い分ける。また
、夏場のロ−伏せの際、部屋はク−ラ−で涼しくしない方がよい。パラフィンはあまり長
い間吸うと体にはよくないから、充分に換気よくして作業をする。また引火性があるので
、電熱器にかけっぱなしにすると火事を起こすので、その点にもよく注意をする。
パラフィンは半透明の大きなブロックの塊として売られているが、扱いやすいようにペ
レット状に袋詰めされたものもある。パラフィンだけで伏せると、伏せた部分がひび割れ
しやすいので、これを防ぐためにマイクロワックスを3、4割程度混ぜる。これは乳白色
をしていて常温でも柔らかい。融点は摂氏60度から90度程度までいくつかの種類が売
られている。ロー伏せの筆は彩色で使用するものと同じでもよいが、ロ−を使用すると筆
はあまり長持ちしない。そのためロ−使用専用に作られた穂先の白くて比較的長い筆を使
えばよい。ただし、こうしたことは好みもあって、彩色用の筆に固執する人もあるので、
さまざまなものを試して自分に合ったものを見出せばよい。ロー筆の穂先の長さはいろい
ろとあるが、高温になったロ−にいきなり浸さず、固形のロ−が溶け始めてまだ温度が低
いうちに筆を容器に浸し、そのまま次第に高温に上昇するまで容器に浸し続け、高い温度
に馴染ませてから使う。高温のロ−は流動性が高い液体となるため、生地に置くと厚くは
盛れない。そのためロ−伏せはロ−の温度を低い状態で行なう方がよい。そうすれが1回
の伏せで充分に防染効果が得られ、ロ−伏せした部分に染料が被ってもすぐにタオルなど
で拭えば、染料が生地に浸透することはない。高温で伏せた場合は、ロ−の厚みがうすく
なるので、ロー上についた染料は生地にまで達してしまう。この半ば色が被る効果を利用
したものがロ−ケツ染めの特徴でもあるが、そうした色の被りやロ−のひび割れ効果を完
全に避けるロ−ケツ染めもある。前述のように、ロ−の温度が低過ぎと生地裏まで浸透し
ないこともあって、ロ−継ぎの箇所がきれいにならず、そこに染めた色が侵入しやすくな
ったりもするが、温度が高いと今度は筆につけたロ−が予想外のところまで走って行き、
しかも伏せた上に色が載ると、下の生地に染まってしまう。こうした扱いにくさがあるが
、糯糊に比べるとはるかに仕事が早いため、今では人間国宝ですらも糊伏せせずにロ−伏
せで済ますことになっている。ゴム糸目も石油から作られたものであるので、糯糊を使わ
ずにロ−を併用するのはいかにも合理的な考えだ。つまり、ゴム落としの段階でロ−も一
緒に落ちてくれるのであるからだが、そうした友禅は江戸時代の糯米糊のみ使用していた
ものとは違って、ロ−ケツ染めが主になった友禅で、いわばその繊細なものと分類される
べきだ。ロ−伏せはもし失敗すれば、その部分はアイロンを当て、新聞紙などを何度も取
り替えると大半は除去できる。わずかにロ−は残るが、揮発油で拭くとさらに取り除かれ
、充分に生地表からはわからないように染めることができる。これも糯糊とは全く異なる
便利さだ。だが、時間はかかるとしても、ロ−でやれることは糯糊でできるし、またより
緻密な仕事もできる。ただし、使用する防染剤によって必ず仕上がりが異なるのが染色の
面白さで、ローを糯糊と同じ効果を得る文脈で使用しても、やはり仕上がりには差がある
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16,水元
17,彩色(胡粉)
18,彩色(淡色)
19,彩色(濃色)
20,再蒸し
22,ロ−吹雪
23,地の彩色
24,ロー・ゴム・オール
25,湯のし、地直し
26,金加工
27,紋洗い、紋上絵
28,上げ絵羽
29,本仕立て、納品
1,受注、面談、採寸
2,小下絵
3,下絵
4,下絵完成
5,白生地の用意
6,墨打ち、紋糊
7,青花写し(下絵羽)
8,糸目
9,地入れ
10,糊伏せ
11,糊伏せの乾燥
12,豆汁地入れ
13,引染め
14,再引染め
15,蒸し
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