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 本振袖『四君子文』

●19 彩色(濃色)
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(図1)最後に濃い色を挿して行く。


い地色を引染めした場合は模様部分の大半はうすい色や中間色を彩色するはずで、通常 は濃い色を挿す部分は少ない。彩色が半ば完成し、まだ全体がうすい色や中間色ばかりで まだ締まりがない状態であるところに、濃い色を順に挿して行くのは、いよいよ完成に近 いという満足感を与えてくれる。濃い色を挿す順序は、赤や青、紫などの後、最後に黒で 終える。濃い色は泣き止め剤を入れなくても全般にざらついた手応えが少々あって、染料 の走り具合はうすい色に比べてうんと遅いので、泣き止めはあまり入れずとも彩色はしや すい。また、すでに挿されているうすい色や中間色で堰止めされた格好になっている部分 が多いので、泣く恐れがさらに低い条件下にある。濃い色の彩色で注意すべきことは、あ まりに濃いと蒸しで定着しなかった分が水元の際に流れ出て、その色が糸目際から滲み出 した状態で染め上がってしまうことだ。胡粉を挿した箇所に滲んだものは抜染しても、胡 粉の色や性質に変化はないので問題はないが、胡粉以外では滲み箇所の色抜きをすれば、 もともと下にあった彩色済みの滲まれた側の色も同時に抜けてしまう。そんなことから、 濃い色では使用濃度の限界を知っておく必要がある。引染めの項でも書いたが、一度濃い 色を染め、蒸しでその分を定着させてからもう一度濃い色を重ねる方法を採るか、あるい は同じ色を濃くするのではなく、黒や焦茶系の色で渋くさせて濃く見せるようにするのが よい。また、濃い色を挿す場合、電熱器による乾燥具合には特に気を配ることが必要だ。 強い張りのある小張り伸子で生地表面のたるみを完全になくし、しかも乾燥の際には電熱 器との間に大張り伸子など遮るものがないようにする。前者を怠れば、たるみ皺に応じた 色むらができる。これを業界では「ふんどし」と呼ぶが、こうなったものはなかなか直す ことはできない。後者もまた同じだが、こうした色むらを物理的に生じさせる要因のほか に濃い染料に界面活性剤が入り過ぎていると、電熱器で炙る場合にはかえってむらになる ことが多い。そのためにも濃い染料にはなるべく助類の使用は極力少なめにする方がよい 。
 濃い色がもし泣いた場合はかなり目立つので、彩色が全部終わった段階で抜染糊を作っ て、生地表からその泣いた箇所にのみかっちりと筆や筒紙で置いて乾燥させ、必ず翌日以 内に蒸しにかける。日にちが経ち過ぎると抜染効果はなくなる。蒸し上がった状態ではそ の泣いた箇所は白く抜けるが同時に元の地色も抜けてしまい、しかも糊が表面に残ってい るので、一旦生地全体を水元し、糊を落としてから色の抜けた部分に面相筆で色を挿し直 す。あるいは、泣き箇所はそのままに糸目を落とし、湯のしを経て染め上がった段階でま とめて地直し作業をするのもよい。通常は後者の方法が採用されている。その場合、抜染 糊は使用せず、泣いた箇所にそのまま抜染剤粉末のロンガリットを溶かした水を小筆でわ ずかにつけ、アイロンなどの蒸気を強く当てることで色抜きをし、その箇所のみを洗って また色を挿して蒸気を当てることで地直しをする。かつて量産ものの手描き友禅では通常 はこうした染料の泣きは手で染めている証として大目に看過されたが、厳しく言えば技術 的な失敗にほかならない。最初から泣かないようなしっかりとした糸目を施し、彩色も細 心の注意でやればほとんどこうした泣きは防げる。だが、泣き以外にもいろいろと生地を 汚すトラブルは生ずるもので、染め上がった最終段階でこれらの染め難の箇所を補正する 作業は大なり少なり必要となる。泣いた箇所は染め難のうちでも最も程度の低いものであ るので、通常は地直し屋で補正してもらうことはしないし、またいちいちそれらを直して もらうと、場合によってはとんでもない高額を請求される。そこで、染め難の原因がはっ きりとわかるちょっとしたものは自分で直せる技術を身につけておくのがよい。
 濃い色を挿すことで地色にも文様部分にも色が埋められて、いちおうは全部染まって完 成作が目に見える形となる。実際は糸目を落とすとさらにくっきりとメリハリの効いたも のになり、また糸目の白さによって絵模様に気品が生ずる。さて、糊伏せは地色の濃淡に かかわらずするのが本来のあり方であるが、かなりうすい地色の場合はゴム糸目が終わっ た段階で地色を引き、乾燥後に蒸しをして地色を定着させないままに彩色する場合もある 。当然、彩色すべき模様部分はすべての箇所で予め地色がすでに挿された格好になってい るから、そのうえに色を挿して完成させたものは全体にやや沈んだ配色になる。それはそ れでひとつの効果でもあるが、やはり模様部分の配色の中に地色よりもうすい色や白がほ しくなる。地色よりうすい色の場合は地色を部分的に抜いたうえで彩色する必要があって 、これは大変面倒で、そういうことをするのであれば最初から糊伏せしておいた方が仕事 は早い。だが、胡粉ではそうした地色の抜染が比較的簡単に出来る。これは胡粉が顔料で 色が変化しないという特性を利用するもので、作った胡粉液の中に、彩色直前にロンガリ ットを容積比で20パ−セント程度の混ぜて彩色すればよい。彩色後半日で地色がおおむ ね抜けたりうすくなったりすることが確認出来、後の蒸しの工程でさらに完全に抜けてく れる。ただし、濃い地色は抜けないし、中間色でも黄ばみが残ったりするので、うすい 地色の場合だけを心がける。また、この抜染胡粉は作った日に全部使い終わることにする 。ロンガリットは水にすぐに溶けるが、時間が経つにしたがって効果が変化するからだ。 また生地のあちこちに抜染胡粉を使用した場合は、染めた部分に新聞紙を当てて生地を巻 き取るようにする。直接に巻けば、ロンガリットの色抜き効果が他の部分に及んでしまう ことがある。抜染胡粉は便利な手段だが、ロンガリットの量や作ってからの経過時間を誤 ると、中途半端に抜けてまだらになったり、逆に抜けては困る糸目際外側の地色まで抜け てしまうので、色の抜け具合を実験をしてから行なう。糊伏せをせずにうすい地色を引き 、蒸しをかけずにそのまま彩色をするのは、いわば工程の手抜きではあるが、そうした得 られるどの配色にも地色が合わさった独特の色調を好む人もある。また、それでしか得ら れない効果的な表現を他の技術とうまく併用すれば、一風変わった友禅の仕事も開拓出来 る余地がある。特に一旦染めたものを抜くという効果はローケツ染めではしばしば効果的 に使用されており、友禅でももっと使用されてよいかもしれない。また、糯糊糸目の場合 でもまず模様部分全体を彩色をして、それから蒸しでそれを定着させ、その後糊伏せせず にうすい色を全体に引染めすれは、前述のゴム糸目の場合の糊伏せなしのうすい地染め後 の彩色と同じ効果は得られる。この場合、蒸し後に糊糸目を洗い落としてから引染めする と、当然白く上がるべき糸目部分にもうすい地色が入ることになるが、それも特別の効果 と考えてもかまわない。こうした一度染めたもの全体に色を被せることを「目引き」と言 う。目引きはたとえばもうそのままでは着ないキモノや帯のうえに防染せずに別の色をか けて趣を一新させるといった染め変えではよく行なわれる。


  11,糊伏せの乾燥
  12,豆汁地入れ
  13,引染め
  14,再引染め
  15,蒸し
  16,水元
  17,彩色(胡粉)
  18,彩色(淡色)
  20,再蒸し
  21,ロ−伏せ
  22,ロ−吹雪
  23,地の彩色
  24,ロー・ゴム・オール
  25,湯のし、地直し
  26,金加工
  27,紋洗い、紋上絵
  28,上げ絵羽
  29,本仕立て、納品
     1,受注、面談、採寸
  2,小下絵
  3,下絵
  4,下絵完成
  5,白生地の用意
  6,墨打ち、紋糊
  7,青花写し(下絵羽)
  8,糸目
  9,地入れ
  10,糊伏せ
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