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 本振袖『四君子文』

●28 上げ絵羽
下の写真はクリックで拡大します。


(図1)上げ絵羽部分図(右後袖中央)。
左端に袖裏地とのしつけ綴じ糸
が見える。



(図2)上げ絵羽状態の振袖を
羽織った姿。


羽模様のキモノは反物の状態では絵がどのようにつながるのか作者以外にはなかなかわ からない。そこで、本仕立てをする前に、作品として衣桁にかけて撮影しておきたいこと も兼ねて、仮絵羽をする。衣桁にかけての撮影は通常は本仕立てしてからは行わなないか らでもある。また、公募展に出品するのも、本仕立てではなく仮絵羽がほんとど原則とな っている。仮絵羽段階では身頃の首の入る箇所には鋏で切り込みは当然入れないので、い わば封を切る前の、まだ誰の手にもわたっていない商品と言ってよい未使用状態にあるが 、この仮絵羽を白生地段階での「下絵羽」とは対照的に「上げ絵羽」と言う。ここで説明 している振袖では襟袵などは裁ち切らずにつながったままに作業を進めて来たが、絵羽屋 に出す前に生地を各部位毎、つまり墨打ちした全箇所で裁っておいて、ただ縫ってもらえ ればよいという状態にしておく方がよい。絵羽屋を信用しないわけではないが、たくさん の模様がついた状態では墨打ちの印も隠れがちであり、模様つけを一番よく知っている作 者本人がする方が、裁ち間違いの起こる危険性は少ない。上げ絵羽は普通は身幅や裄など は下絵羽の時よりも少し大きく寸法を取る。そのためせっかくの絵羽模様が厳密には合わ ないが、これは展示している間に光焼けが生じても、本仕立てではその焼けが縫い込み部 分に入って隠せるという配慮からでもある。そうした展示焼けの心配がない場合は、下絵 羽と同様に柄合わせをぴったりにするのももちろんかまわない。ただし、これから厳密な 模様つけが始まる下絵羽とは違って、完全に染め上がった後でなされる上げ絵羽は、かな り気軽な仕立てと言えるもので、柄合わせもそこそこにされることが多い。こうした通常 の上げ絵羽とは違って、袖の外側を縫い込んだり、袖下の丸みを作ったりするなど、表面 的には本仕立てと同じように見えるていねいな上げ絵羽もある。当然それは通常の上げ絵 羽と同様に胴裏地はつけないが、通常のものより数倍の、ほとんど本仕立てと変わらない 手間と工賃を要するので、時と場合を選んで行なう方がよい。
 上げ絵羽した段階で合口で模様や地色が合っているかどうかがはっきりとわかるが、も し地色に差がある場合は、地直し屋で「刷毛合わせ」をしてもらう。これはうすい方の地 色を少しずつ濃く染めることでもう片方の濃い地色と合わせる作業だが、こういったこと は地色を引染めして糊を洗い落とした後に、必ず相互の生地を合わせて合口での濃度差を 確認し、自分で刷毛合わせすることで、なるべく上げ絵羽といったキモノ作りの最終段階 でそのような染料を使う作業をしないで済むようにすべきだが、念を入れて上げ絵羽後に さらに合口地色の調整を行なわねばならないことはままある。そのためにも引染めのあま った染料を小皿一杯程度でもいいので保管しておくのだが、それをうすめて刷毛で少しず つうすい方を染めると、ほとんど合口での地色は同じになる。化学染料だけではなく、天 然の染料でも褪色は避けられない。古いキモノを身幅や裄などを新しく広めに仕立て直す 場合は、縫い込み部分に隠れていた褪色していない部分が新たに表面に出て来るから、ど うしてもそうした色の差を補正する地直しは必要となる。色合わせの基になる染料はどの 色も光に対して平等に褪せるのではなく、そうした色補正作業は、混色して彩色された色 成分の中から特に褪色した色素のみを導き出して加える必要がある。これは染料の混ぜ具 合による発色を知っていればそれほど難しい作業ではない。要はむらなくそうした色を少 しずつ重ねることで、全体を均質に見えるようにできるかどうかだ。


  21,ロ−伏せ
  22,ロ−吹雪
  23,地の彩色
  24,ロー・ゴム・オール
  25,湯のし、地直し
  26,金加工
  27,紋洗い、紋上絵
  29,本仕立て、納品
     1,受注、面談、採寸
  2,小下絵
  3,下絵
  4,下絵完成
  5,白生地の用意
  6,墨打ち、紋糊
  7,青花写し(下絵羽)
  8,糸目
  9,地入れ
  10,糊伏せ
  11,糊伏せの乾燥
  12,豆汁地入れ
  13,引染め
  14,再引染め
  15,蒸し
  16,水元
  17,彩色(胡粉)
  18,彩色(淡色)
  19,彩色(濃色)
  20,再蒸し
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