『工程』トップへ



 本振袖『四君子文』

●25 湯のし、地直し
下の写真はクリックで拡大します。


(図1)湯のしをして染めが完成。


理工場では水で洗って乾燥させた生地を最後に湯のしの工程に回す。湯のしは反物全体に均 質に蒸気を当て、元の白生地のような皺のない状態にする。長さ数十センチ程度の小裂は 別として、家庭のアイロンがけでは反物の耳が弛んだりして湯のしと同じ状態は得られな い。蒸し工場では湯のしを機械でやることが常識になっているが、縮緬系の生地の場合は 必要以上に伸び切ることが多いので注意を要する。こうした必要以上の伸びのことを考え て、本来は手湯のしする方が最もよい。これは蒸気を当てながら手で生地を引っ張って幅 を整えるもので、縮緬特有のシボが生きる。だが、熟練の技術を要する割りに仕事も少な いせいか、現在では専門業者はとても少なくなっている。そこで、同じような効力を得る には一旦機械湯のしした後に蒸気アイロンの蒸気を生地表面から1センチほど離して順に 全面にかけて行く。蒸気が当たった瞬間に生地は適度に縮んで手のしと同じような効果が 得られる。湯のしでは長さ方向だけではなく、幅も白生地段階より伸びることがある。そ のため、どういう状態が生地の本来の正しい長さや幅なのかわからないと言ってもよいの だが、たとえば予め4尺5寸で裁った身丈が湯のしによって4尺8寸程度に伸びたとすれ ば、それはやはり伸び過ぎであるので、霧吹きで水をかけるなどして全体を湿らせ、その ままの状態で乾燥させて縮める方がよい。また、こうしたことが起こらないように、白生 地の墨打ち前に湯のしに出すこともよい。だが、シボがあってそれが持ち味となっている 生地は、あまり湯のしでそのシボを平らなものにしてしまっては意味がない。したがって 湯のしにかける場合、あまり幅出しもせず、生地を引っ張らずにそのまま蒸気を当てる程 度にしてもらう。機械湯のしではあっても、何でも画一的な処理で済ますわけではなく、 そうした調整はある程度やってもらえる。湯のしが上がって来ると、機械を通すために工 場で改めてミシンで縫われていた乳布箇所の糸を外し、その部分を蒸気アイロンで平らに しながら、生地前面をつぶさに見てシミや整理の不具合がないか検反もする。泣いた箇所 の抜染跡や、地色上の擦れ、その他修正すべき部分を確認し、専門家に依頼すべきものは そこに回す。ごく小さく色が抜けている程度のものは面相筆を使って色を埋め、そこにア イロンで蒸気を何度かかけて蒸しをする。生地の擦れは見る角度によってはっきりとわか るが、濃い地色ではよく目立つ。色の抜けが原因と言うより、絹の表面の組織がダメ−ジ を受けているもので、水元の項で触れたように、大半は水の中で生地がお互い強く擦れ合 うことで生じる。これを直すために専門家はロ−ト油という浸透剤を使用するが、そうい った薬品を使用せずに直るのであればその方がよい。アイロンを1センチほど離して蒸気 を当て、擦れ部分を生地を傷めないようにきれいな刷毛などで何度か撫でるか、さらに地 色のごくうすいものをかすかに筆で載せると、ほとんどの擦れはわからなくなる。
 また、色を抜く必要があるような地直しの場合もたいていは自分でできる。少量のロン ガリットを数倍の量の水でうすめ、その液を色を抜きたい箇所に面相筆で塗り、アイロン で即座に乾燥させた後に今度はまたすぐにアイロンの強い蒸気を当てる。1回ではすぐに は抜けないので、根気よくこれを何度か繰り返す。色が濃い場合は完全には抜けず、黄色 が残るが、そのうえに新たな色を加えて周囲の色に馴染ませることができるのであればそ の黄色を抜く必要はない。またこの残留した黄色を抜こうとすると、生地がかなり弱くな り、その部分の厚さが減少する。濃いロンガリット水溶液を使用すれば、より少ない回数 で色は抜けるが、ロンガリット成分が生地に残るために、抜染した箇所に色を埋めても数 日のうちにまたその色が抜ける。下手な地直し屋に依頼した場合、たいていこういうこと が起こる。色抜きした後はその部分にきれいな水を霧吹きで吹きかけるなどして綿棒や筆 でよく洗い、アイロンですぐに乾燥させる。この作業を3、4度繰り返すと残留ロンガリ ットも消える。こうしておいて次に色の抜けた箇所に合わせた色を埋める。そしてまた蒸 気を何度も当てることを繰り返して色止めする。ロンガリット水溶液は作ってすぐに使用 し、半日以上は置かないことにし、残ったものは処分して筆や皿はきれいに洗っておく。 ロンガリットを使用すれば筆は傷みやすいが、専用に1本用意しておくことにする。以上 のような地直しが必要ないように染めることが理想ではあるが、現実には蒸し工場で難が 生じることもあり、最終段階での色補正作業は欠かすことができない。それでも注意して 染めればそうした地直し箇所はごくわずかに留めることができる。友禅染めはこのように 最後まで息の抜けない作業の連続だ。なお、部分的ではなく、生地全体を色抜きしたい場合はロンガリットではなくて、工程14の「再引染め」の後半でも触れたハイドロサルファイトを使用するが、この方法に関しての詳細はここをクリック。


  16,水元
  17,彩色(胡粉)
  18,彩色(淡色)
  19,彩色(濃色)
  20,再蒸し
  21,ロ−伏せ
  22,ロ−吹雪
  23,地の彩色
  24,ロー・ゴム・オール
  26,金加工
  27,紋洗い、紋上絵
  28,上げ絵羽
  29,本仕立て、納品
     1,受注、面談、採寸
  2,小下絵
  3,下絵
  4,下絵完成
  5,白生地の用意
  6,墨打ち、紋糊
  7,青花写し(下絵羽)
  8,糸目
  9,地入れ
  10,糊伏せ
  11,糊伏せの乾燥
  12,豆汁地入れ
  13,引染め
  14,再引染め
  15,蒸し
最上部へ
前ページへ
次ページへ
 
『序』へ
『個展』へ
『キモノ』へ
『屏風』へ
『小品』へ
『工程』へ
『雑感』 へ
『隣区』へ
ホームページへ
マウスで触れていると自動で上にスクロールします。
マウスで触れていると自動で下にスクロールします。