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 本振袖『四君子文』

●15 蒸 し
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(図1)蒸し工場から上がって来た直後。



(図2)生地耳に取りつける渋札。
左2点は束にしたもの。
右2点は左2点右の細手を撚った状態。


しの工程は染料を発色させ、生地に確実に定着させるために不可欠だ。酸性染料は絵の 具と同じように、どの色でも自由に混ぜ、筆や刷毛で着色したとおりに生地に染めつける ことができるので、染色とはいえ、色の感覚に関しては紙に絵を描くこと変わりはない。 ところが、この蒸しをして初めて水に漬けても色落ちしないものとなる。染料によって蒸 しを必要としないものもあるが、そういった染料でも絵の具と同じように色を置いて乾燥 させただけで生地に定着することはなく、何らかの染料定着の過程を必要とする。そこが 染色のひとつの特徴だ。京都は友禅を生んだ場所であり、現在もなお日本一の本場である ので、キモノの卸し問屋はもとより白生地屋や染料店、糊屋、各工程を専門とする職人や その組合、それに蒸しなどの整理工場が市内の中京区を中心にひしめいている。そのため 、染めの終わった後の蒸しに関してはそういった工場に持参してやってもらう方が仕上が り具合が確実であり、しかも早い。1980年代以降、こうした工場の数もかなり減少し て来ているが、宅配便で蒸すなどの整理を依頼する生地とお金をよぶんに入れて送ると、 清算した後の残金と一緒に仕上がり品を返送してくれたりもする業者もある。太い筒型の 家庭用蒸し器が販売されているが、それらは数万円以上もするし、蒸しが完全に行なわれ る保証はない。というのはキモノのように長い巻き物状のものになれば、家庭用蒸し器で は巻きが何重にもなって、反物内部に蒸気が行きわたりにくいからだ。蒸し工場では反物 を吊るした状態で、しかもたくさんの反物を一括して大きな蒸し釜に入れて作業するため 、どの部分にも同じように蒸気が当たる。蒸しだけならば1反1000円程度でやっても らえる。蒸しは釜の中で1時間ほどで入れられて終わる。濃い地色の場合は念のために2 度蒸ししてもらう。また抜染剤を生地全体にわたって比較的多く使用した場合、蒸し釜の 中で他の反物にまで影響を与えることがあるため、その1反だけを特別に釜に入れて蒸し てもらうことにする。
 引染めが終われば乳布がついたまま生地を全部木綿糸で簡単に縫いつなぎ、新聞紙など で太い巻き芯を作って順に巻く。この時、糊面と引染めした部分がじかに触れないように 新聞紙を1枚ずつ挟み込む。新聞はインクのつかない古いものほどよい。蒸しだけでいい 場合はそのことを明確に工場に伝える。反物の末端部の耳に、柿渋を引いて作った直角二 等辺三角形の札(専門店で束にして売っている)の先端をこより状にして結び、札には名 前や連絡先、それにたとえば「糊蒸しのみ」といった作業内容をわかりやすく書いておく 。なお、この渋札は通常は白生地の墨打ち段階で取りつけるが、その方法に関してはこちらを参照のこと。さて、蒸しの工程では伏せた糊が別の箇所にくっつかないように特性の布を挟み込んで作業を してもらえるが、蒸し釜から下ろされた後は古新聞でまた糊部分の裏表を挟み直してくれ る。ところがしばしば糊がまだ柔らかい状態でそれがなされるため、家に持ち帰った時に は全体が皺になり、新聞紙も糊にくっついてしまっていることが多い。それをを剥がすと 糊も剥がれようとするが、もしもう一度張り木に張って引染めする必要のある場合は、紙 をゆっくりと剥がし、それでもなお糊がくっついて取れてしまう部分はまたネバ糊を入れ た筒紙を絞って補充しておく。蒸し後に再度引染めをすることはなく、糊を落とす場合は 、新聞紙が多少くっついたままでも水槽に浸せばすぐにはがれるので心配はない。なお、 糊をすっかり水中で落とした後はまた張り木に張って乾燥させるので、乳布はそれぞれ所 定の位置につけたままにしておく。つまり、糸目の地入れを行なう前に縫いつけた乳布は 彩色が終わって最終的な蒸しに出すまでの間、ずっとつけたままにしておく。


  6,墨打ち、紋糊
  7,青花写し(下絵羽)
  8,糸目
  9,地入れ
  10,糊伏せ
  11,糊伏せの乾燥
  12,豆汁地入れ
  13,引染め
  14,再引染め
  16,水元
  17,彩色(胡粉)
  18,彩色(淡色)
  19,彩色(濃色)
  20,再蒸し
  21,ロ−伏せ
  22,ロ−吹雪
  23,地の彩色
  24,ロー・ゴム・オール
  25,湯のし、地直し
  26,金加工
  27,紋洗い、紋上絵
  28,上げ絵羽
  29,本仕立て、納品
     1,受注、面談、採寸
  2,小下絵
  3,下絵
  4,下絵完成
  5,白生地の用意
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